【EDMの作り方】EDM制作の初心者が陥りがちな6つの勘違い

  • 2020年5月14日
  • 2021年11月25日
  • EDM
EDM studio

この記事では、EDM 制作初心者の方が往々にして陥りがちな勘違いと、それに対してどのように取り組むべきかという対処法を簡潔に解説しています。

記事のタイトルに EDM と記載してはいますが、実際これらの内容は EDM だけに留まらず、広くコンピューターで音楽を作り始めて間がない人一般にも当てはまることが多い、多少普遍性のある内容でもあります。

さまざまなジャンルにも応用できる内容もあるかと思いますので、適宜参照のうえご活用いただけたらと思います。

※ この記事は約7分で読むことができます。

1、ソフトシンセのプリセットを使えばすぐに作れる

ゼロから音を作る方がメリットが多い

市販のプリセットパック例

結論から言うと

ソフトシンセはイニシャライズ状態から音を作るのに慣れたほうが、制作速度も速くなるし、サウンドアジャストの精度も増すので、楽曲制作全体のクオリティアップになる。

という話で


  • 曲にバチっとはまるプリセットの方が少ない
  • だからプリセットを探すより作ったほうが早いケースが多い
  • 単純な状態から音を組むので音の細かな変化を認識できる
  • だから倍音やデチューン等の微細なニュアンスの違いを認識できる
  • シンプルな音の方が大きくかつ個性を表現できる
  • 後工程でプラグイン加工するので元音はシンプルなほうがいい
  • 実際 EDM はシンプルな音から構成されている曲が結構多い

といった理由からです。

特に、各パラメーターの細かい音の変化を敏感にキャッチできるようになるのが大きなメリットで、これがエディット精度の向上に大きく寄与します。

一方初心者がプリセットからアプローチすると、既にある程度形をなしているためざっくりしたエディットで満足してしまうことが多く、このためになかなか精度の高いエディットが身につかないのです。

プリセット頼みでもある程度のものは作れるかもしれません。ただそれ以降のスキル向上や引き出しを増やす段になって伸び悩んでしまいます。

練習のポイント

トレーニングは Youtube のチュートリアルを活用しましょう。初心者がチュートリアルを参考に音を組む際のポイントは


  • 「この音を作りましょう」と目的をはっきりさせている動画をみる
  • 説明されている通り全くそのままなぞってみる(打ち込みも)
  • 早合点して飛ばさない

などです。チュートリアルを流し見するのではなく、最初は上手な人のやり方を丁寧になぞることを心がけてください。

関連記事

Youtube でチュートリアルを活用する際のポイントをまとめた記事です。私が日頃チェックしている動画も多数紹介していますので、一度ご覧ください。

おすすめチュートリアル

Serum Tutorial – Don Diablo x Zonderling 'No Good' Lead (Future House)

Don Diablo のサウンドを Serum でリメイクした動画ですが、ファットな出音でも、実際はシンプルな構成によって作られています。

Serum はGUI が単純なので、ぜひ画面のパラメーターどおりに操作して、サウンドのポイントを会得しましょう。

真似をしているうちに「いるパラメーター」「いらないパラメーター」の違いも分かるようになります。

2、とにかく音をレイヤーすればいい

適当にレイヤーしてもダメ

Kygoの新曲「I’ll wait」のメイキング映像より / ひときわ目立つリードのレイヤー群

一見構成する音数が多いほど、サウンドはリッチになり音がビッグになると考えてしまいますが、注意して調整しないと音数が多いが故にそれぞれの音の個性を打ち消しあい、逆に全体として特徴の無い音になる可能性があります。

慣れないうちは、むやみにたくさん音を重ねるではなく

1パート当たりのレイヤーが3-4程度で満足したサウンドになるようにする。

というのが適当ではないかと思います。
以下よくある EDM 曲のレイヤー構成例です。


  • ベース:サブ【100Hz以下】/メイン【100~400Hz】/ トップ【400Hz~】
  • コード:シンセ1【ディケイ】/ シンセ2【サステイン】/ ピアノ
  • リード:リード1【センター】/ リード2【ワイド】/ リード3【ユニゾン】
  • キック:サブ / メイン / トップ

経験上柱となるパートはだいたい3つ前後のレイヤーで十分構成できるし、実際にこのようなレイヤー例はプロでも数多く見かけることができます。

“的確に”重ねる経験を積むことが生きてくる

「適当にレイヤーしても結果として音に厚みが出ていて破綻がなければ、問題ないだろう」

このような意見を全否定しませんが、それよりも必要な音を見極め、丁寧に調整して重ねていく経験を積んだほうが、ジャンル・スタイル・パート・楽器を問わず、楽曲制作のさまざまな局面に応用できるノウハウになると考えています。

以下にレイヤーのポイントを列挙します。


  • 役割を分ける(エンベロープ別/パノラマ別/フリーケンシー別)
  • レイヤーどうし音の区分けはEQでクロスオーバーをセットする
  • パート全体の音が大きくなるように、空間が広くなるように
  • 音の重心は低めに(EDMに軽い音はNG)
  • 系統の異なる音のレイヤーもOKしかし一体感は必要

1/2小節ループ

私がレイヤー作業時によくやるのが、1/2小節などの短い尺で同じ部分をぐるぐるループさせることです。

これによりメロディやコードの変化に気を取られず、純粋に音の微細な変化に集中することができ、「AよりもBの音の方が一体感がある」「EQで大胆にローカットする方がレイヤーどうしのミッドがぶつからずサウンドが大きく感じられる」といった判断が容易になります。

音符に基づいた作業とは異なり、エンジニアリングやサウンドデザインは判断に難儀することが多々あるので、迷った際にお試しください。

おすすめチュートリアル

Everything To Know About Layering Leads..

Big Z のチャンネルは簡潔に要点だけを学べるのでおススメです

具体的なサウンド例をだして、リードのレイヤー時に押さえるべきポイントを説明してくれています。適当に重ねているわけではなく、きちんと役割分担させていることがわかります。

3、キャッチーなドロップができたらあとは何とでもなる

ドロップが出来たら何とかなる?

EDMはドロップの出来ばえが曲全体のクオリティを左右する、というのは一面正しいですが、ドロップができたらあとは適当で OK というのは間違いです。

EDMには

バース ➡ (プリコーラス) ➡ コーラス ➡ (ビルドアップ)➡ ドロップ ➡ ブレイク ➡ ・・・

というおおまかな構造があり、特にバースからドロップに至るまでの流れはかなり重要です。ポイントはこの部分を作る際


  • 流れがスムースであること
  • 冗長でないこと
  • 個々の部分が相応にキャッチ―であること
  • コードやモチーフなどに唐突感がないこと
  • できるだけボーカルを入れること(次の項目参照)

などに注意する必要があります。

とくに「個々が相応にキャッチ―である」のは結構重要で、うける曲はその場面場面に相応しいキャッチ―さがあり、これがいわゆる「冗長さ」対策になります。

また「冗長でないこと」は、ライザー系のエフェクトや派手なフィルが無くても間延びしないという意味で、音楽的アレンジだけで十分間が持つということです。

若手のEDMプロデューサーはこのあたりが結構ラフだったりしますが、the chainsmokers や the galantis クラスの大御所になるとイントロやバースにもスキがありません。

バースはAメロ、コーラスはサビに相当します。近年はBメロに相当するプリコーラスという概念もよく聞くようになりました。

ボーカル

Splice には多くの高品位のフリーボーカルネタがあります

以前はそうでもなかったですが、近年はバースやコーラスに一切ボーカルが無い EDM 曲というのは珍しいし、あるだけで曲の映え方が大きく違うので、Splice とかのフリー素材でも構わないので、出来るなら入れておくべきです。(後で本チャンと差し替える可能性があっても、私なら何かしら必ず入れます)

単に張り付けるだけでなく、サンプラーでボーカルチョップなり izotope vocalsynth2などのプラグインを活用してできる限りキャッチ―にしていきましょう。  

ちなみにコーラスはいわゆるサビであり、ボーカリストの見せ場であるという点は忘れないように。

おすすめチュートリアル

How To Make The GALANTIS Vocal Effect

再度 Big Z のチュートリアル動画ですが、このようなボーカルエフェクト・ギミックはどんどん投入して曲をキャッチ―にしていきましょう。

関連記事

本トピックスの関連記事です。併せてご参照ください。

4、特別なプラグインが無いと作れない

使い慣れたプラグインが必要

EDM の制作に特殊なプラグインは不要です。広く普及しているプラグインだけで制作できます。

重要なのはそれらを実際に使い込んで、自分なりに挙動や特徴を把握して使いこなせるようになっているかどうかです。


  • 淡白で薄味のEQ
  • えぐみがあり、倍音をギュッとブーストできるEQ
  • やたらとアタック感とパンチを増強させるコンプ
  • 粘りのあるフィルターエンベロープを備えたソフトシンセ
  • ビットクラッシュがきれいにかかるディストーション

などなど、個々の機材の特徴が自分なりに感覚的につかめてくると、状況に応じて的確なサウンドの調整ができるようになります。

これらはあくまで自分の主観でOKで、この感覚の積み重ねがやがて個性になっていきます。

あると望ましいプラグイン

特別なプラグインは不要ですが、率直に


  • xfer Serum(メイン)
  • refx Nexus3(汎用)

はできれば揃えたいと個人的には思います。

理由は、Serum のすぐれた出音もさることながら Youtube チュートリアルがとても充実しているという点と、Nexus3の(的確にエディットするという前提であれば)別売りエキスパンションの質が高く、即戦力になる音が多いという点で、出来るなら使うべきと考えます。ちなみにこれらをフリーで代替するのはあまり現実的ではありません。

なお、この2つのソフトシンセを指定するのはあくまで私の実体験(ドラムス以外の必要な音の8割をこの2つでまかなっています)によるものなので、興味があるなら他のソフトシンセでももちろん OK です。

アコースティック系サウンドは、できれば Kontakt 標準があるといいですが、なければ Nexus3標準・ Cubase 標準のものでまずは用を足しましょう。

エフェクトプラグインはチュートリアル動画で「使えるコンプトップ10」とか、レビュー系記事・動画をザーッと横断してチェックし、全部で共通しておすすめされているものを、余裕を見て順次導入するのがいいかと思います。

xfer Serum 無料デモ版リンク

xfer Serum の無料デモ版リンクはこちらになります(15分限定の使用制限があり)。ページ最下部、以下の赤枠部分からダウンロード可能。

xfer serum はセール対象になることがほぼありません。必要な方は、以下のリンクよりどうぞ。(Splice は Rent to own となります)

【xfer serum】
圧倒的音質と操作性を誇るウェーブテーブル・シンセ音源!

5、マスタリングで曲はずっと良くなる

マスタリングよりもその前段階に注力をすべき

結論を言えば

マスタリングがモノを言うのは、前段階の2ミックスが適正に仕上がっている場合のみです。

楽曲の基本的品質は2ミックスができた段階でほとんど決定しており、マスタリングはそれをベースにサウンドを補正&強調することしかできません。マスタリングで曲の問題が劇的に改善はしないと心得ましょう。

プリマスターの状態で不適切なバランスとグルーブの曲が、マスタリングで絶妙なバランスとグルーブの曲に生まれ変わる可能性は期待できないわけです

EDM にしろ何にしろ、序盤の音のセレクト・サウンドデザイン・作編曲の段階から小さなポリッシュアップを重ねていき、その結果として大きくパンチのある楽曲になりますこれ以外の近道は存在しません。

マスタリングは自分でこなしてもOKです。ただ外部のマスタリングスタジオに依頼するのは、楽曲の品質の最終確認(QC)という点で意義はそれなりにあると個人的には感じています。

6、EDM に音楽理論なんていらない

いるといえばいる

EDM はダンスミュージック。だからどちらかといえば音楽理論よりもサウンドデザイン、エンジニアリング、そしてセンスを重視する分野である。

この見方はあながち的外れではなく、これは洋楽一般にみられる傾向でもあると感じています。

深い音楽理論(とそれに付随する演奏技術)が求められないというのは一面事実ですが、あまりに表面的な理解しかしていないと、それが足かせになる可能性は十分にあります。

基準として、EDM のドロップを聞いて、キーボードでササっとメロディ・コード・ベースが弾けるなら OK でしょう。もし難儀するなら厳しいです。なぜなら EDM は耳コピがひじょうに簡単だからです。

音楽理論の理解とは

EDM のための理論の勉強法というのは特にありませんので、ここでは具体的にどのように学ぶかの説明は省きます。皆さんが J-pop やゲーム音楽などの、日頃からなじんでいる曲を制作するための理論の学習で十分対応可能かと思います

ただ理論に疎い方に強調したいのは


  • 理論の理解 / 鍵盤での弾奏 / 耳での感得 の3点は一体である
  • 耳コピで「理論の実際の活用例」を知らないと的確に運用できない

ということで、

「理論は分かるけど、鍵盤で押さえられない」
「理論は分かるけど、どんな音かパッとイメージできない」

という状態は理解した内には入らないと考えましょう。

あと耳コピ経験のない人は得てして観念優先になり、ぎこちなく、唐突で露骨、そして奇をてらった運用に走る傾向があります。

上級者の理論的トリックは曲中に、ささやかな形でごく自然にちりばめられていることが多く、同一の理論事項でもさまざまな形態で運用されます。

それゆえにその体得には丁寧な耳コピが必要になるわけです。

一音の動きも聞き逃さないような訓練を積み重ねて頂けたらと思います。

理論も演奏も一切できないEDMプロデューサーとして Audien のような例もありますが、キャリア的につぶしが効きにくくなるので真似するのはやめたほうが無難でしょう。

まとめ

EDMというジャンルは、誤解を恐れずラフに言えば、深い理論的理解・すぐれた演奏能力を兼ね備えた音楽エリートでなくとも、努力とセンス次第で彼らと伍することができる、ある意味民主的なジャンルでもあります。

ただし、前提として努力の方向性は重要で、それさえ間違えなければ相応の成果はきっと出るでしょう。その指針の一つとしてここでの内容を参考にしていただけたらと思います。

そして文中ではずいぶん偉そうな文面で EDM 論をぶっていますが、かくいう私もまだまだ発展途上の身です。

ご一緒に頑張っていきましょう。


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