ソフトシンセの使い方も知っているし必要なオーディオネタも揃えた、なのになんでか分からないけどEDMっぽくならない!
こういった話は国内に限ったことではなく、世界中のEDM制作を頑張るセミプロ未満クリエイターによくあるお悩みと言えます。
ここでは「なんかEDMっぽくないぞ?」と思ったときに、ぜひ試していただきたいエディット手法を9個ピックアップしました。
アイデアに煮詰まって立ち往生している際にも効果的で、いままでの頭では思いつかなかった新しいインスピレーションが湧いてくること請け合いです。
※ この記事は約7分で読むことが出来ます。
① ボリュームを描く
EDM らしさを出すのに積極的にボリュームオートメーションを描くのはとても効果的です。メリットは以下の2点。
- ① ビッグなサウンドとクリアなミックスを実現できる
- ② 楽曲にEDMらしいグルーブ感を注入できる
そして以下はよくあるシチュエーション。
メインリードの迫力を出すためにシンセをたくさんレイヤー、さらにサウンドを大きくするためにリバーブをかけてOTTでガツンと絞り、サチュレーターでパンプアップ・・・
確かに音にパンチが出るものの、過剰なアタックやリリースが他の音をマスキングしてこれ以上音が入れられない、あるいはリバーブが楽曲全体を覆ってしまい、リズミックなキレが損なわれてしまうかもしれません。
この場合、以下のようにオートメーションしてみましょう。
- アタックが強すぎるなら音のタチをフェードイン気味に
- リリースが長すぎるなら途中でサっとフェードアウト
- 存在感の薄い音ならアタックだけ急峻なボリュームアップ
- ビッグかつクリアな音にするならリバーブ音を急減衰させゲートリバーブ効果を
- etc
リード以外にもドラムス・パーカッション・バッキング等々、あらゆるサウンドの音量をどんどん描いて、思うようなエンベロープに変えてみましょう。
個々の音はファットなのにミックスはスッキリ、ある程度自由に音のキレもコントロールできるので楽曲全体がグルーヴィになります。
下で紹介しているMike williamsのボリューム画面
リバーブ残響をコントロールしてグルーブ感を出す
この手法は通常のエフェクトでは不可能な人工的フィールを強く出すことが出来、それがEDMらしい未来感あるサウンドの一助となります。ただ慣れていないと不自然なエディットになることも多いため、センスは求められます。
Mike williams の例
【12:00~】上のオートメーション画像の解説
② 200~400Hz帯の低音コードを入れる
EDMはミックス全体がどちらかといえば低音に重心が寄りがちな傾向があります。バキバキのエレクトロサウンドであっても、出音の派手さは濃密な倍音のためであって、実際の基音は低めにキープされていることが多いと感じます。
ダブステップで良く使われた Massive のサウンドも、基音は低めで濃密な倍音が中高音域をカバーするのが多かったのも同じことでしょう。
それはさておき、もし制作しているEDM曲にある種のスカスカ感がぬぐえないのであれば、200~400Hz 周辺にミッドロー専用の低音コードを差し込んでみると良いかもしれません。
下の「Forever」の場合、低音コード最低音は 200Hz 周辺
ベースの低次倍音も集中する重要なエリアで
必然デリケートなミックスとなる
ポイントはベースに被るからと安易にローカットせず、出来る限りふくよかな低音域を維持しつつクロスオーバーをセットして上手くベースとなじませる点です。
またローインターバルリミットが気になる領域ですが、まずは2和音で完全4・5度音程を中心に一部3・6度音程をまぜてみましょう。思い込みで判断せず実際に耳で判断すれば意外と低いポジションでも問題なくコードが成立することが分かります。
派手なコードトラックを追加する予定がないなら、大胆にステレオワイドにして存在感を前面に出すのも面白いでしょう。
Disco Fries の例
低音コードをフィーチャーした楽曲例。かなり低い帯域でも和音が成立している
この腰の重さがEDMのカッコよさの一要因
③ キックとベースをグルーする
キックとベースは分離させることも重要ですが、一体感を出すのも同じくらい大切です。
やり方は簡単。2つのサウンドをバスにまとめバスコンプで絞りなおかつサブハーモニクスを適度に足すだけ。
バスコンプはなんでもOKですが、cytomic The glue / OTT などがこの用途では良く使われているようです。
バスコンプとして定評のある cytomic The glue
ポイントはキックとベースが同時になっている状態とそれぞれがソロでなっている状態であまりに音量差が出ない程度に留める点です。またオンオフでグルーブが大きく変化するようなセッティングも避けたほうが無難でしょう。
キーになるのが次に足すサブハーモニクス。キックとベースの双方に共通のトーンと重量感を付加し、ズシリとしたコシのある一体感を得るのが目的です。
元音にもよりますが、あると無いとでは大幅に曲の安定性が変わる場合があるので、低音域に不満のある場合は試してみる価値があるでしょう。手ごろなのは Waves R-Bass でしょうか。
Waves R-Bass(右) はスタンダードなサブハーモニクスのプラグイン
個人的には Accusonus Beatformer(左) の「Boom」というパラメーターがお気に入り
ただしかなり CPU 負荷が高い
ただこの手法をとるとキック・ベース個別の調整やエディットに小回りが利きづらくなります。作業効率よりも低音域の一体感を重視する人向けと言えるでしょう。
尚、ベースのサイドチェインはバスに送る前にかけるのを忘れないように。
キック&ベースグルーの Cubase 作業画面
これだけでローエンドの安定感が飛躍的に向上することも
④ ボーカルチョップをリードにする
EDM のリードは必ずしもシンセ主体である必要はありません。ここでは簡便で即効性が高いボーカルチョップを引き合いに出して説明します。
手順は以下のとおり
- ① ボーカル素材から「アーー」等長めのフレーズを切り出す
- ② サンプラーにロードする
- ③ アタックのピッチ「しゃくれ」が自然になるよう開始部分を短く
- ④ 必要に応じてリリースを短く
- ⑤ 必要に応じてグライドをオン
ポイントは必ず「アーーー」のようなロングトーンを使う点と鳴らす高さ、ユニゾンの有無でしょうか。
ボーカルチョップは高すぎると不自然に、低すぎるとバッキングにマスキングされるので適切な高さで鳴らす必要があります。
また上下にオクターブユニゾンするのも悪くは無いですが、個人的には単ラインがミックスの際に落ち着きが良いと感じます。尚、リバーブにはこだわりましょう。
Cubase のサンプラー画面。赤枠がサンプル冒頭のピッチ「しゃくり上げ・下げ」
無いほうが良い場合も多い
以下ボーカルチョップリードの一例で、元ネタはシンプルなロングトーンの単ライン。音量にご注意ください。
Martin jensenの例
厳密にはボーカルのサンプルではないが「アーー」のようなロングトーンが
リードサウンドに適していることがわかる
⑤ 核となる音にパーカッシブサウンドのアタックを混ぜる
リズムの基軸となるのは言うまでもなくドラムスですが、通常のバッキングやリードもドラムスに負けずリズム的要素を強く押し出すことが出来ます。
やり方は強調したい音のアタック部分に短めのパーカッシブサウンドを混ぜるだけ。
感触としては Massive や Serum でディケイの強いノイズオシレーターをミックスするのと類似の手法と言えるでしょう。
良く使われるサウンドは以下のようなもの。
- キックのアタック部分
- タムの 〃
- スネアの 〃
- クラップの 〃
- スナップの 〃
- 金属系効果音の 〃
- その他アタックのある音なら何でも
これらを強調したい音と混ぜて、バスでOTT /リミッター等で絞りましょう。
ポイントは3つ。
短く切り詰めること、適度にローカットすること、パーカッシブサウンドに音程感がある場合、楽曲のキーに合わせつつも一定でユニゾンさせるということです。旋律等に合わせて音程を動かす必要はありません。
これによりドラムス以外にリズミックな起点が生まれ、楽曲にタイトなグルーブ感を注入することができます。
Kshmr の例
【1:05~】リードにパーカッシブサウンドをミックスする手法を解説
⑥ リファレンス曲をローカットして混ぜてみる
これは「サンプルネタとして拝借してしまおう!」という話では無く
リファレンスの曲の一部分を自作曲に重ねて、EDMとして不足している要素をチェックする
ことが目的になります。
例えばドラムス&ベースのリズム隊が仕上がっているとして、なにか上物のアイデアが欲しい場合、リファレンス曲を 400hz 周辺からフィルターでローカットして重ねてみてください。
大体 400Hz 周辺以上が上物と考えて差し支えない
試しにドラムス&ベースのトラックに混ぜてみよう
若干ムリヤリな手法ですが、こうすることでどの程度の倍音感を上物で満たすべきなのか、どういったパートを加えていくのが有効なのか、上物の適正なミックスバランス等々のヒントを得ることが出来ます。
また間接的ではあるものの、使っているベースの音量・重量感の判断基準にもなり得ます。
何となく制作中の楽曲と聴き比べるだけ、という使い方をされることが多いリファレンスですが、自作曲の一部として捻じ込むことでかなり具体的な情報を得ることが出来るでしょう。
注意点は制作楽曲とリファレンスのテンポを同じにすること、事前にキックの音量だけは揃えておくことでしょうか。
⑦ エクステンドミックスのイントロ・アウトロをチェックする
この手法のポイントは
エクステンドミックスのイントロ・アウトロでは、通常のミックスでは聞けない細かなリズムの要素をチェックできる可能性がある
という点です。
EDMはドラムス・ベース・バッキング・リード以外にさまざまな細かい音が組み合わさってグルーブが構成されています。ただそれはリファレンスをじっくり聴いてもなかなか詳細に聴き取れないことが多いようです。
そういった場合、Youtube などでリファレンスのエクステンドミックスが無いか探してみましょう。
前後のエクステンド部分は楽曲のパーツをそのまま流用して使われているケースが多いので、そのサウンドを参照・模倣することで同様のグルーブ感を制作中の楽曲に取り込むことが出来るかもしれません。
下に挙げている「Babylonia」のアウトロ部分
四つ打ちキック以外の細かな音の存在に注目
Spotify などのストリーミングだと難しいですが、Beatport など昔ながらの音源ダウンロードサイトだと結構メジャーな楽曲でもエクステンドミックスが販売されているケースがあります。
運よく見つけたら、ぜひ試してみましょう。
The Him & Robby east の例
エクステンドミックス例。ドロップのグルーブ感の秘密の一端がイントロ・アウトロから伺える
⑧ MIDIやオーディオをスライドさせる
EDM のドロップ作成時などでアイデアがネタ切れしたら、試しにドラムスの単一パート、あるいはドラムス以外のパート等をクオンタイズ分前後にスライドさせてみましょう。
一例としてディスコ系の「ツッチー・ツッチー」のハイハットのフレーズ。これを八分音符分スライドさせると「チーツッ・チーツッ」となり、いきなり前のめり感が増します。
このように
スライド法は楽曲全体のグルーブ感を大きく変えたい場合に有効
で、聴き過ぎて煮詰まってしまった曲に新鮮な視点をもたらしてくる、どちらかといえば DJ 畑のクリエイターが良く活用するアプローチです。
様々にスライドさせるうちに、リズムのハネ具合・コードの切り替わり・リードラインのノリ・レガート部分とミュート部分の状態がどんどん変化していきます。
もちろん普通はヘンテコなグルーブになることが多いのですが、その一方でマンネリ化してしまった視点では思いもつかないクールなリズムパターンなどを発見できる可能性も、また高いです。
何の変哲もない単に「ずらす」行為だが、思いもつかなかったコードの区切れや
バッキングのリズムアイデアが得られることがある
スライド法は事前に曲がどう変化するか予測するのは難しいです。なのであまり深く考えず、「なにか面白いインスピレーションが得られないかな」という軽い気持ちで試してみるといいでしょう。
⑨ 区切れごとにフィルターをオートメーションする
最後に EDM 制作でよく使う手抜きワザをご紹介します。内容は以下のとおり。
4・8・16小節ごとの楽曲の区切れで、フィルやライザーFxに重ねてマスターでフィルターをオートメーションすると簡単に「次につながる感」が得られる
ポイントは
- 気持ちよい「シュワー感」「ブレイク感」がでるまで粘る
- ローが薄くなり過ぎないようにする
- ローパス・ハイパスを組み合わせる
- 派手なジャンル・メロウなジャンルなどでフィルターの深さを変える
- フィル等のエディットはフィルター前に済ませておく
で、8小節目は軽く16小節目は濃密にフィルターしてテンションに差をつけるのも効果的です。
この手法が良い意味で「手抜き」なのは、当該部分のフィルや効果音のエディットがややラフであっても、フィルターで全体を包み込むことでムリヤリ「一体感」「次につながる感」を持たせてしまうことが出来る点です。
ローパス・ハイパスの両方をオートメーションする
ローがペラペラになりすぎないように
ローパスで適度な「シュワー感」を、ハイパスで適度な「ブレイク感」を出せるまで粘りましょう。レゾナンスもメリハリ良く活用を。
プラグインのGUIではレゾナンスが多すぎるように見えても、実際のサウンドは地味だったりします。必ず耳で聴いて判断するようにしましょう。
使う機材はフィルターでもEQでも用を足せれば何でもOKですが、個人的には Fabfilter simplon がこの用途にフィットすると感じます。
以下サウンド例、音量にご注意ください。
サンプル 5 ~ 7秒付近がフィルター部分
ライザーFxとフィルターだけでも「自然に次につながる感」が得られる
まとめ
以上、EDMっぽくなるコツについてザっとみてきました。
ご紹介した手法の多くは既存の楽器演奏・音楽理論的ノウハウとは一線を画したもので、これは DAW での楽曲制作が一般的になった今だからこそできるものばかりです。
個人的には EDM はDAW・ソフトシンセ・プラグイン等のデジタルデバイスがけん引する音楽カルチャーと見ています。
楽器演奏や理論的スキルよりもこれらの機材のポテンシャルをいかに引き出せるかが、楽曲にEDMっぽさを注入するキーになるのではないでしょうか。
今後も新たな発見があれば、適宜追加していこうと考えています。
お試しください。
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