EDMを作るにあたって、今まで様々なソフトシンセを試してきました。その経験で気が付いたのは、「シンセ毎にEDMへの向き不向き」がそれなりにあるということ。
究極、いかなるシンセもEDMで使えないことはありません。しかし、一定の序列はあると思っていいでしょう。
この記事では経験の浅い方向けに、巷で見かけるメジャーなソフトシンセを7つピックアップ。EDMに向いている順にランク付け。「なぜ向いている(向いてない)のか」「メリット&デメリット」等を説明していきます。
なお、結論を早く知りたい方のために1位から順にランク付けしています。評価項目は5つで内容は以下のとおり。
- 【EDMに向いてる度】総合的にみてEDMに向いているかどうか
- 【サウンドクオリティ】音のクリアさや太さ
- 【使いやすさ】直感的な操作性
- 【価格】お値打ち度合い
- 【CPU負荷】マシンへの優しさ
ソフトシンセは一見お手軽ですが、使いこなすには習練が必要です。不用意に手を広げるのではなく、信頼できる機材にフォーカスし、時間を投入していきましょう。
1位 xfer Serum
【サウンドクオリティ】★★★★★
【使いやすさ】★★★★
【価格】★★★
【CPU負荷】★★
Serum の概略
Deadmau5 の元ユニットパートナー SteveDuda が一人で開発した、2014年リリースのウェーブテーブル(以下WT)シンセ。それまでEDM系シンセの筆頭だったLennarDigital sylenth1等を退け、新たなスタンダードとして君臨することになります。
EDM界隈のシンセサウンドなら無条件でどんなジャンルにも対応可能。
どちらかと言えばメインルーム、フューチャーベース、ダブステップ等のノイジー系向きですが、トロピカル、ディープ、スラップハウス、などソフトなものもOKで、EDMを作るなら必ず持っておくべきソフトシンセの一つ。
エッジの効いたハリのあるサウンドクオリティで定評があり、音質で本機とタメを張れるのは、u-he 系シンセないしは omnisphere など少数でしょう。
弱点は、アコースティック系のWTが標準で付属しないのと、高品位サウンドの代償としてCPU負荷がそこそこ高い点。使いどころはある程度絞る必要があります。
オーバーサンプリング設定画面
CPU負荷がきついなら、倍数を下げよう
Serum のメリット・デメリット
【メリット】
- Youtube でのチュートリアルが充実している
- サードパーティのEDM系プリセットが充実している
- GUIは比較的シンプルで必要十分な機能がそろっている
Serum の大きなメリットの一つは、Youtubeチュートリアルが充実していていることです。基本的な操作から特定のサウンドのリメイクまで、使い方を学ぶ素材に事欠きません。
Splice の取り扱いプリセット数は30,000個以上と、次点のsylenth1(11,000個)を抑えてダントツの数を誇ります。
Serumのサードパーティ製プリセットは現在進行形で増え続けている
オリジナルWTプリセットの充実により常時フレッシュなサウンドが供給され、他のソフトシンセにありがちな、マンネリ化したサウンドに陥ることがありません。
参考:Splice公式_Serum_Presets(要ログイン)
参考:Splice Sounds 即戦力 Serum プリセットパック集
【デメリット】
- そこそこCPU負荷が高い
- シンセ以外の生系サウンドがやや弱い
トップクラスではないにしろ、Serum はCPU負荷の高いソフトシンセです。
対処法は、「適宜オーバーサンプリング設定を変える」「ユニゾン数を7前後に留める」「リリースの長さやボイシングに注意し、不要な同時発音を避ける」など。作業工程に応じて柔軟に対処する必要があります。
Serum の活用方法
Serum は一見多機能ですが、本当に重要なパラメーターはそこまで多くありません。
初心者が自分に合ったSerumの使い方を学ぶには、先に自分の作りたいEDM系サウンドをイメージし、「有名なサウンドをSerumでリメイク」系のチュートリアルに触れるのが最短ルート。
イニシャライズ状態から音を組み上げていく工程をなぞることで、自分に必要な機能だけにフォーカスして慣れることが出来ます。初心者はそのプロセスを忠実にマネしましょう。
それらを叩き台に数をこなせば、自然と自分なりの「Serumエディットの型」が出来上がるはずです。
上級者のやり方をなぞるのが、効率的な学び方
打ち込んでいる midiのフレーズもそのまま真似しよう
以下、Serum関連のおすすめYoutube チュートリアルのチャンネルです。
参考:SynthHacker
参考:BigZ(ディープハウス・トロピカル系)
参考:WA production(ダブステップ・エレクトロ系)
チャンネルのメニュー右の検索窓から「Serum」でソートすると、Serum関連の動画だけをピックアップできます。
以下、EDM系Youtube動画を参照にする際のコツを記した記事です。
Serum のデモ版
Serum のデモ版は、以下のリンク先ページ最下段よりダウンロードできます。
2位 refx nexus3
【サウンドクオリティ】★★★★
【使いやすさ】★★★★★
【価格】★★
【CPU負荷】★★★★★
nexus3 の概要
xfer Serum と双璧をなすEDM系サウンド御用達シンセのもう一本の柱。主だったソフトシンセの中では古参の部類で、EDMの歴史を作ってきた生き字引的ソフトシンセです。
純粋なシンセではなく、いわゆるロンプラーと呼ばれるサンプルベースのソフト音源。イチからサウンドを作ることは出来ませんが、別売りプリセットパックに、EDM「あるある」サウンドが多数網羅されているのが大きな魅力。
EDMを作るなら、持っておくべきソフトシンセと言えます。
ピアノ、ストリングス、ブラス、ギターなど、アコースティック系サウンドもそこそこ豊富で、Serumの穴を上手く埋めてくれます。二台で連携を組めばサウンド不足に悩むことは当面無いはず。CPU負荷は低く、EDMで必須の複数トラックレイヤーの中核となってくれるでしょう。
なお、Nexus3の販売・サポート等は refx が取り仕切っており、公式サイト以外での本体・プリセットの取り扱いは一切ありません。
refx 公式サイトのプリセットラインナップ
ひじょうに充実している
nexus3 のメリット・デメリット
【メリット】
- プリセットにはEDM系即戦力サウンドが豊富にある
- 動作が軽い
- サポートが丁寧(英語)
Nexus は、ひじょうに充実したEDM系プリセットのラインナップを誇ります。
トロピカル系ならマレット・フルート等、フューチャーベース系ならボーカルチョップ等、他のソフトシンセだとなかなかケアできない、各ジャンルのツボを押さえた必須のサウンドが揃っています。
また、refx はサポート(英語)もそこそこ手厚く、対応も丁寧。トラブル解決まできちんと付き合ってくれます。トラブルが起きたら一人で悩まず、すぐにサポートに問い合わせると良いでしょう。
ユーザー目線に立ったサポートを施してくれる
時差のため返信にタイムラグがある
以下は、当方のトラブル解決レポート。はるか海の向こうから遠隔操作で対応してもらいました。
参考:refx Nexus3 の問題をリモートで解決してもらいました【サポートを受ける手順も解説】
【デメリット】
- プリセットのバラ売りはしていない
- イチから新規のサウンドは作れない
Nexus3 はSplice等でのプリセットバラ売りには非対応。プリセットが欲しければ、割り切って¥3,800~¥7,500のパックをまるっと買うしかありません。
パックには130個前後のプリセットが入っている
またロンプラー最大の弱点は「無い音は出せない」、つまりイチから新規のサウンドは作れないこと。ただ、Nexus3 は標準で2,700以上のプリセットが付いてくるので、最初から不足感に悩まされるということは無いはず。
nexus3 の活用方法
Nexus3 を使うにあたって最初にすべきこと。それは、ひととおりプリセットをチェックし、「使える」サウンドを分別しておくことです。
Nexus3 はロンプラーであるため、「使えるプリセット数 = 戦力となるサウンドの数」といえます。全てのプリセットが自分にとって戦力になる訳ではありません。
必要な時に必要な音が手元にあるかどうかは、作業効率を大きく左右します。なのでこの「武器」を、必要な時にすぐ手元に呼び出せるようにしておきましょう。
イケてるプリセットにあらかじめブックマークしておくと
作業がかなりラクになる
また本機を常時使っていると、同じプリセットばかりヘビロテしていることがあります。手持ちのプリセットが「陳腐化」し始めているシグナル。新たなプリセット導入のタイミングが来ていると知るべし。
参考:refx Nexus3 を使いこなす5つのコツ!
参考:ソフトシンセのプリセットチェック&カスタマイズを必ずすべき理由
Nexus3 のデモ版
Nexus3 にはデモ版はありません。
3位 Revealsound Spire
【サウンドクオリティ】★★★★
【使いやすさ】★★★★
【価格】★★★
【CPU負荷】★★★
Spire の概要
Serum や Nexus3 などの陰に隠れてやや存在感が薄いが、メインルーム系EDMサウンドの担い手として、一定の地位は確保しているソフトシンセ。
リリースは2013年で、EDMが一般に浸透してきた時期と重なります。それゆえ、ノイズ感あふれる「Shaper」、即席にアタックをカチ上げる「X-Comp」など、かなりEDMを意識した仕様となっています。
音に小気味よい一体感があり、少しの操作でEDMフィール漂うサウンドが作れるのも大きな特徴。CPU負荷も高すぎず、sylenth1 や Nexus3と同様、複数トラックレイヤーに駆り出してもOK。
他、Wobble系サウンド・ビルドアップLFO系エフェクト・ブリブリ感あふれるシンセベース・ハリのあるプラック・アルペジオなど、多種多様なシンセ音も器用にこなします。
サウンドのパンチはSerumに及びませんが、EDM用シンセとして、良い意味で平均的、バランスが取れていると言えます。
以下はSpireのサウンド例。
Spire のメリット・デメリット
メリット
- EDM系プリセットが数多くある
- 比較的シンプルな構造
本機は、サードパーティ製のEDM系プリセットがそこそこ充実しています。また、1画面でエディットが完結するシンプルな操作性ゆえ、イチから音を組んでも、そこまで労せず「EDMっぽい」音が作れるのも大きな強みです。
以下に、プリセットデモのリンクを置いておきます。
参考:Splice公式_Spire_EDM_Presets(要ログイン)
参考:Spire EDM Essentials Vol.3(Youtube_Demo)
参考:Spire EDM Essentials Vol.4(Youtube_Demo)
参考:W. A. Production_Free Spire 192 Presets!(youtube_Demo)
参考:Future Bass For Spire Vol.1(Youtube_Demo)
デメリット
- ビジュアルエディタが無い
- ファットなサウンドという訳ではない
Spire は Serum や omnisphere のような描画エディタはなく、基本ダイヤルとフェーダー中心のGUI。人によっては若干とっつきにくさがあるかもしれません。
確かに本機はEDM向きではありますが、Serum/Omniphere/Divaなどと比較されると、音の分厚さはさほどという訳でもありません。適宜外部エフェクトで存在感を出す工夫が必要でしょう。
Spire の活用方法
本来であれば、Serumと同じように、「EDMで有名なあの音をリメイク」的なチュートリアルを参照するのが手っ取り早い。しかしこの手のチュートリアル、SpireはSerumほど充実していません。
基本的操作はYoutubeでさらうとして、続きはSpliceなどで気に入ったプリセットをセレクトし、中身を覗いて使い方を学ぶことになるでしょう。
エフェクト類を解除して、4つのオシレーターを一つ一つ丁寧にチェックすれば、構造の解析にそこまで難儀しないはず。
一旦エフェクトをオフにし
オシレーターをすべてミュートするとよい
逆に、比較的小回りの利く性能を生かして、サードパーティ製の良質なEDMプリセットを、弾幕のように多数投入する「割り切った」使い方も、本機の活用法として、アリといえばアリです。
Spire のデモ版
Spireのデモ版は、以下の公式サイト画面右上の「Download」からご利用いただけます。
4位 u-he Diva
【サウンドクオリティ】★★★★★★
【使いやすさ】★★★★
【価格】★★★
【CPU負荷】★
Diva の概要
コンセプト的にガチEDM向きという訳ではないものの、EDMプロデューサーから確かな支持を得ている、ややニッチな立ち位置のソフトシンセ。
80年代のアナログシンセをモジュール化した復刻版シンセであるゆえ、以下のような80年代風のレトロ感あるエレクトロポップに適していると言えます。(「Diva」の由来もここにあると推測)
今のメジャー所だと、calvin harris/the weekend/dua lipa 等がこの手のレトロ系タッチのサウンドが多いと感じます。
Serumを凌駕するCPU負荷(そもそもU-He製プラグインはだいたい重い)の甲斐もあり、ファットでクリアな出音は説得力十分。ただ、かなり重いです。
シンプルでありつつも、アナログ感あふれる重厚なシンセブラス・パッド。ディープ・ポップス・R&B路線ならば十分顔役として戦力となります。
本機は向き不向きが分かり易く、使う人によっては DIvaに1位の評価を与えることもあるでしょう。
以下は Divaの詳細レビュー記事です。
参考:U-He Diva の真面目なレビュー(根強い評価の理由を徹底チェックしてみた)
Diva のメリット・デメリット
メリット
- ひじょうに高品位なサウンド
- 80年代のレトロフィールにはベストマッチ
ガチEDM方面で生かすこともできるが、やはり本機の真髄はレトロフィール溢れる、80年代復刻サウンドにあります。この点は Serum、omnisphereなどのライバルシンセよりも、Divaに一日の長があるでしょう。
デメリット
- 数あるソフトシンセでも最高クラスのCPU負荷
- Wobbleのような複雑な音は作れない
本機は、相当なCPU負荷で悪名高いソフトシンセ。とはいえ「Multicoreスイッチをオンにする」「Accuracyを適宜使い分ける」「同時発音数に配慮する」「バウンスする」など、対処法は複数あります。出音の質感と天秤にかけて、うまく乗り切りましょう。
Diva の活用方法
Divaの画面は、一見派手な上段に目を取られます。しかし実は、下段中央タブ「Trimmers」に、Divaならではの興味深い機能が隠されています。
一言でいえば、ユニゾンするボイス毎にデチューン・ピッチを個別にセット出来る機能。単音でも音が分厚く、リッチになります。
ちなみに、標準プリセットはあまりEDM向きではありません。そこで、可能なら別売りの「AZS Transitions Vol.1・2・3」を使って頂きたい。
トランス系ではあるものの、的確に Diva のツボを押さえた音作りで、EDM方面でも戦力たり得るプリセットが粒ぞろい。デモ曲そのままのサウンドで、音つくりの学習に大いに役立ちます。
参考:U-He Diva Presets(AZS Transitions Vol.1・2・3含む)
Diva のデモ版
Divaのデモ版は、以下の公式サイト下段「Download for windows/macOS」からご利用いただけます。割安のショップリンクも置いておきます。
参考:U-He公式サイト_Diva
参考:U-He Diva plugin-boutique
5位 Lennar Digital sylenth1
【サウンドクオリティ】★★★
【使いやすさ】★★★★
【価格】★★★
【CPU負荷】★★★★★
sylenth1 の概要
2007年のリリースから、Serum が世に出るまでEDM系サウンドの定番としてMassiveとともに頂点に君臨していたロングセラーソフトシンセ。ひじょうに動作が軽く構造がシンプルなため、気軽にバシバシ使えます。
Deadmau5系プログレッシブのサウンド、あるいは The Chainsmokers の「Roses」「Selfie」 のメインリードとしても有名。2000年代終わりから活動している Avicii や Hardwell の楽曲でも sylenth1 らしきサウンドを頻繁に耳にすることが出来ます。
ただ、軽快な動作の代償か、Serum や Diva などと比較すると、サウンドの分厚さはそこまででもありません。とはいえ、マシンパワーの事情から、逆にそれらを敬遠するユーザーからの根強い支持を得ているのも事実。
EDM界隈で、以前ほど見かける機会は減ったものの、本機の出番はまだあると言えるでしょう。
sylenth1 のメリット・デメリット
メリット
- 軽快な動作
- チュートリアルが多い
一時期EDMサウンドを席巻した事情もあってか、Youtube チュートリアルなど、本機の使い方を学ぶ素材はそこそこ豊富。構造もシンプルなので、操作をマスターするのにハードルはそこまで高く無いはず。
デメリット
- 後発シンセと比較してサウンドがやや劣る
- 操作画面は基本昔のまま
本機は2015年に ver3にアップデートされて以降、サウンドエンジンもブラッシュアップされました。とはいえSerum等の新興シンセサイザーと比較されると、サウンドに「聴き」劣りがするのは否めません。
また操作画面は2007年リリース当時と基本同じ。フェーダーとノブ中心の操作に若干戸惑うかもしれません。
sylenth1 の活用方法
既に別のメインシンセを使っていたとしても、リードやベースを厚くするためのレイヤー用や、ベース・アルペジオ・プラック・パッドなど、軽快な動作を生かしたサポート役として、まだまだ使い得る余地はあります。
以下は sylenth1 プリセットのプレビュー動画。バリエーションが豊富です。
時間をかけてイチからサウンドを作るのも良いですが、軽さを生かして、良さげなプリセットを次々放り込む、割り切った使い方も、場合によってはアリでしょう。
以下は、フリーのsylenth1プリセット集リンク。多数揃えておきましょう。
参考:cymatic _Ultimate List of Free Sylenth1 Presets
参考:WA production_free sound
参考:Sylenth Ultimate” – FREE 660 Presets
本機はセッティング次第である程度サウンドが化けます。プリセットで気になる音があれば、どうやって音が組まれているか必ずチェックしましょう。
sylenth1 のデモ版
Sylenth1 のデモ版は、以下のリンク先よりダウンロードできます。
6位 Spectrasonics Omnisphere
【サウンドクオリティ】★★★★★
【使いやすさ】★★★
【価格】★
【CPU負荷】★★★★
Omnisphere の概要
Omnisphereと聞いて、EDMを連想することはあまりないかもしれません。
Serum のようにEDM向きシンセとしてデザインされているわけでも無く、Nexus3 のようにEDM系プリセットが充実しているわけでも無いからです。
とはいえ、透き通るようなベル、浮遊感あるパッド、ダイナミックなアルペジオ等は omnisphere ならでは。ガチEDM用シンセというより、オールマイティなサポート役としてのポジションが、まずは適当でしょう。
贅沢にメモリを食うロンプラーだけあって、出音の信頼感は高く、他のソフトシンセでは出せない存在感あるビッグなサウンドが omnisphere の強みです。ただそのためか、動作が緩慢なのが難点。
EDMを作りたい人にとって最優先とは言えないシンセですが、Don diablo 始め、EDM系ビッグネームにも愛用ユーザーは多い。本機をEDM向きにし得るか否かは、ひとえにユーザーの腕と感性によるのでしょう。
Omnisphere の画面がチラッと覗き見える
Omnisphere のメリット・デメリット
メリット
- 高品位でビッグなサウンド
- かなり多機能
Serum や Diva など、高いクオリティのサウンドを誇るソフトシンセは多いですが、omnisphere はいい意味でどれとも異なる高品位なサウンド。決してEDM向きでない本機をEDM方面で使うメリットは、ここにあります。
また本機は「グラニュラーシンセシス」「パッチスタックモード」「ORBコントローラー」「WTシンセ兼ロンプラー兼サンプラー」など、他のソフトシンセにはない多彩な機能で有名。ただ、これがメリット足り得るかどうかも、やはり使う人次第。
Omnisphere には使いきれないほどの機能がある
デメリット
- 動作がかなりもっさりしている
- 単体では一番値が張る
omnisphere のデメリットとして無視できないのは、そのスローなレスポンス。エンベロープを描くにしろ、プリセットをロードするにしろ、いちいちタイムラグがあるのはストレスです。
とりあえず「Lite Version」ボタンをオンにし、プリセットロードの負担を下げましょう。
Lite version ボタンでパッチロードの時間を短縮化できる
一応、下の記事で「もっさり感」低減の対処法が列記されていますが、根本的に軽快な動作は期待できません。
参考:Omnisphere Reference Site_4.3.11. Lite Version
Omnisphere の活用方法
巷で謳われているように、本機は14,000以上を誇る標準プリセットの数でも有名です。
ただそれが戦力足り得るか否かは事前準備によるところが大きく、Nexus3と同様、実戦投入の前にプリセットを概観しておき、使えそうなものに「Rating(★の数五段階評価)」しておくべきです。
プリセットのロードが緩慢なので、楽曲制作時にプリセット探しをするとモチベーションがダダ下がりになる恐れがあります。
星の数でプリセットを並べ替えと、お目当てのプリセットが容易に見つかる
個人的なおすすめは「エレクトロ系は★一つ」「トロピカル系は★二つ」「ダブステップ系は★三つ」のように、自分なりのカテゴライズルールを設けてRatingすること。「使えないから★一つ」のような評価に、あまり意味はありません。
また、本機エディットのコツとして「リンクチェーン」はぜひ覚えておきましょう。エンベロープ・フィルター等のエディットを全レイヤーに一括して適用してくれます。サウンドに統一感が出るし、作業効率化にも重宝します。
Omnisphere のデモ版
本機のデモ版はありません。
参考:Spectrasonics 公式_Omnisphere
7位 Native Instruments Massive
【サウンドクオリティ】★★★
【使いやすさ】★★★
【価格】★★★★★
【CPU負荷】★★★★
Massive の概要
2006年リリースの本機は、現在使われているメジャーなソフトシンセの中でも最古参の部類に入ります。WTによる複雑な倍音構成と柔軟なモジュレーションで、ダブステップやエレクトロで頻出のWobble系、あるいはVowel/Growl系サウンドを世に知らしめたシンセとして有名。
デビュー当時の Zedd のサウンドに特徴的で、他、Skrillex「Scary Monsters And Nice Sprites」、Nicky Romero「Toulouse」などMassiveをフィーチャーした、時代を彩るEDM曲が多数あります。
マクロ・LFO兼ステップシーケンサ・複雑なモジュレーション・豊富なFXなど、当時にしては充実した機能群。サウンドも大きなマイナスはありません。操作は若干ややこしいが、慣れると使い勝手は決して悪くなく、昔からのユーザーで今も手放せない人もかなりいるはず。
massiveは本来、この順位に甘んじるシンセではありません。ただ sylenth1 のような将来性はあまり見込めず、優先して深掘りするシンセではないと考え、この順位としました。
Massive のメリット・デメリット
メリット
- NI Komplete・バンドル製品に含まれている
- そこそこオールマイティ
2021年の今、本機を単体購入することは基本無いでしょう。NI Komplete やNIのバンドル製品に含まれているため、使わないけど所持している人も多いはず。
massiveはバンドル購入で入手する
価格を製品数で割ると、ひじょうに安価なシンセである
また本機は、ダブステップやエレクトロ御用達のイメージが強いですが、ベル・パッド・アルペジオ等、汎用なサウンドもそれなりにカバーする実力があります。
デメリット
- 関連情報が古い
- 他社製プリセットパックは先細り気味
後継のMassive Xが既に世に出ていることもあり、本機のメジャーアップデートはあまり期待できないかもしれません。同様に、ネットの情報や他社製プリセット等が今後ますます充実する、ということも期待薄と見えます。
トレンドの変遷が早いEDM界隈で、これは大きなハンディキャップでしょう。
Massive の活用方法
若干古い内容ですが、Massiveチュートリアルが豊富なYoutubeチャンネルをピックアップしておきます。
参考:Sancus(ダブステップ系)
参考:SynthHacker
チャンネル上で「massive」で検索。massive動画だけを表示すると見やすいでしょう。
また、ジャンルに縛りはありますが、フューチャーベース系のプロデューサーとして、本機を上手く活用している、San Holo の動画を上げておきます。バッキングシンセはMassiveメインで構成されています。
尚、Massive 最大の特徴は、LFOのモジュレーションにあります。この点に着目して、使えそうなプリセットの中身を覗いてみるのも良いでしょう。
massiveはかなり複雑なLFO/エンベロープ/ステップシーケンサ等の
モジュレーションが、お手軽にできてしまう
Massive のデモ版
Massive のデモ版は、以下のリンク先「デモ」ボタンよりダウンロードできます。
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まとめ
以上、EDMに向いてるソフトシンセランキングでした。
要点をまとめると以下のとおり。
- ディープ系でもメインルーム系でも、xfer SerumはEDM系シンセ筆頭候補
- Nexus3 には Serumの穴をカバーさせるとよい
- 第三のシンセは自分のお好みをピックアップすればOK
- シンセは不用意に手を広げず、まずは少数精鋭で
- 新しいプリセットパックを折に触れて補充し、サウンドの鮮度を保つ
各ソフトシンセの、EDM向き不向きについて説明しましたが、ポイントは、各シンセの個性を理解し、自分の制作スタンスに合うよう上手く組み合わせること。
「腰の重いコアとなるシンセ」「小回りの利く足軽のようなシンセ」「他のシンセに出せない音で弱点をカバーするシンセ」など。シンセの個性を理解することで、自分のスタンスにもっともフィットした「陣形」を作ることが出来るでしょう。
これはと思うシンセを一つづつ試し、良きEDMライフをお楽しみください。