サンプリングレート(サンプリング周波数)とは何か?最低限知っておくべきことまとめ

  • 2021年11月7日
  • 2021年12月18日
  • その他

サンプリングレート、デジタル環境で音楽を作るなら、避けては通れない概念です。音質に関わるコトであるのは分かるけど、正確に理解できていない方も少なくないはず。

この記事では

  • サンプリングレートとは何か?
  • どのサンプリングレートを使うべきか?
  • サンプリングレートによって再生速度が変わるのはなぜか?

などについて説明していきます。

サンプリングレート自体は、楽曲制作中に常時意識することは無い事柄です。それゆえアバウトな理解で放置していると、いつまでも宙ぶらりんな知識のまま。

ここではそういった方のために、サンプリングレートの基本事項から、とりあえず知っておいたほうが良いことをピックアップしてまとめました。

サンプリングレートとは

サンプリング周波数(サンプリングしゅうはすう)は、音声等のアナログ波形をデジタルデータにするために必要な処理である標本化(サンプリング)において、単位時間あたりに標本を採る頻度。

引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/サンプリング周波数

レコーディングの際、マイクの拾うアナログ信号は、オーディオインターフェースの中でデジタル信号に変換され、以下のように、縦軸(音量)と横軸(時間)で2次元の波形データとして記録されます。

この横軸の時間を担う区切れの細かさをサンプリングレートと呼びます。一方の縦軸は音量を担い、ビットレートと呼びます。

サンプリングレートの単位はHz(ヘルツ)。44,100Hzであれば、1秒間に44,100分割の細かさ、48,000Hzであれば、48,000分割の細かさになります。


このように、連続したアナログ信号を、横軸の「段階のある」デジタル信号と置き換えていくプロセスを、標本化(サンプリング)と言い、もう一方の縦軸の「段階ある」デジタル信号と置き換えていくプロセスを、量子化と言います。

この2つのプロセスをまとめて、AD変換と呼びます。また、この逆をDA変換と呼びます。 

マイクの音声信号が、コンピューターに取り込まれる際、あるいはDAWのプロジェクトを再生してスピーカーから音を聞く際、オーディオインターフェースの内部で、このAD/DA変換が行われています。

サンプリングレート 44,100Hz が標準である理由

44,100Hz が標準である理由

ご存じのとおり、オーディオデータの標準(CD規格)は44,100Hz/16bit です。なぜ44,100Hz が標準のサンプリングレートとなったか。

主たる理由は

① 人間は20,000Hz 以上の高周波を聞き取ることが出来ない
② サンプリングレートは、入力する上限周波数の倍確保する必要がある

の二点です。

①は、おおよそ20,000Hz まで再生・録音できれば、メディアとして事足りることを意味します。そのためには、②よりサンプリングレートは 40,000Hz 以上確保すればOK。

また、ソニー(およびフィリップス)がCD規格を検討していた70年代、ソニーではデジタルのオーディオをPCM-1600 という録音機(VHSメディア)に記録していました。

SONY Digital Audio Processor PCM-1630 / Akakage1962
https://ja.wikipedia.org/wiki/PCMプロセッサー より転載

で、自社製品との互換性の観点から、結果的に 44,100Hz という端数を含んだ値が選ばれたようです。のちにCDは世界中に普及し、この数値がオーディオデータの標準として定着するに至りました。


➡ 参考:【外部リンク】Phile web コミュニティ サンプリングレートはなぜ44,100Hzなのか


次に、なぜ「サンプリングレートは、入力する上限周波数の倍確保する必要がある」か、について説明します。

ナイキスト周波数

サンプリングレートの半分の周波数を、ナイキスト周波数と呼びます。

デジタル信号には一点大きな欠陥があります。それは、アナログ信号をデジタル信号に置き換える時に、ナイキスト周波数を超えた成分は「超えた分」だけ低い帯域の信号に変換されてしまうという点。

つまり、サンプリングレートの半分から上の成分は、すべて元のアナログ信号に存在しない、フェイクの信号(ノイズ)に化けてしまうために、使い物にならないのです。

このノイズは上の図のように、鏡面反射のような性質を持つことから「折り返し雑音(エイリアスノイズ)」と呼ばれます。

通常、ナイキスト周波数を超える音の音量は小さく、エイリアスノイズも音量としてはわずかなものです。とはいえ音楽にとって邪魔な存在。

ゆえにオーディオインターフェースには、AD変換回路の直前に「アンチエイリアスフィルター」なる急峻なローパスフィルターが組み込まれ、ナイキスト周波数より上のノイズに化ける成分を、あらかじめカットするようになっています。

また、アンチエイリアスフィルターは、サンプリングレート変換機能のあるソフトウェアにも組み込まれています。

以上が、「サンプリングレートは、入力する上限周波数の倍確保する必要がある」理由です。


➡ 参考:【外部リンク】デジタル信号におけるエイリアスとナイキスト周波数

エイリアスノイズを実際に作ってみた

蛇足の実験です。エイリアスノイズを波形編集ソフトで作成してみました。

波形編集ソフトにて 44.1KHzフォーマットでサイン波 20KHz の信号を合成。これをアンチエイリアスフィルター無しで 32KHz にリサンプリングします。

ナイキスト周波数は16KHzなので、12KHz のエイリアスノイズに化ける計算になります。

結果は・・・

確かに 12,000Hz のエイリアスノイズに化けています。ただ旧世代のソフト(コンバートの質が低い)ため 7,900Hz周辺に別のピークも発生、ここでは無視します。

当然ですが、リサンプリング時にアンチエイリアスフィルターをオンにすると、結果は無音になります。

どのサンプリングレートを使うべきか

基本 44,100Hz / 48,000Hz で問題無い

結論から言えば、44,100Hz あるいは 48,000Hz で特に問題ありません

ただ、マシンのスペックが許すなら、96KHz/88.2KHzの高サンプリングレートを試す価値はあります。

96KHz/88.2KHzのような高サンプリングレートは、理論上は高音域まで忠実に再生され、音質が良いとされています。

11,000Hzのサイン波の波形。上から順に44.1KHz/96KHz/192KHz
データ上では、レートが高いほどサイン波の忠実度が高い

また、高サンプリングレートには以下のメリット・デメリットがあります。

■ メリット

  • 44.1Kのアンチエイリアスフィルターが取りこぼすエイリアスノイズを回避
  • 高音域に濃密な倍音のある楽器(ブラス等)収録のエイリアスノイズを回避
  • ソフトウェア音源のエイリアスノイズ回避に有効な場合がある

■ デメリット

  • CPU負荷が高い
  • エイリアスノイズを含んだサウンドの方が音楽的に望ましい場合がある
  • DAWによっては44.1KHzにコンバートする時にエイリアスノイズが発生する

前提として、アンチエイリアスフィルターは完璧では無く、ごく微量のノイズは発生してしまう事情があります。

つまり「良くなる部分」「悪くなる部分」「グレーな部分」がないまぜ。よって「自身の環境で試し、効果があれば高サンプリングレートにする」のが良いでしょう。

ちなみに私個人は、メリット・デメリットを天秤にかけて48Kが現状ベストとの結論です。


➡ 参考:【外部リンク】Q. Should I use high sample rates?
➡ 参考:【外部リンク】High Sampling Rates – Is there a Sonic Benefit?


以下は、イギリスのマスタリングエンジニア Streaky 氏がサンプリングレートを選ぶ基準の動画。

THE BEST SAMPLE RATE – Streaky.com

やはり「ケースバイケース」「聴いた感じで判断」のようです。

サンプリングレートとインターフェース

8in/8out のような、多チャンネルのオーディオインターフェースは、使えるチャンネル数とサンプリングレートに相関関係があります。

以下は、当方所有の motu896HD のCubaseにおけるIO設定画面。96KHzでアウト数が14ch分確認できます。

次は 192KHz の場合。こちらはアウト数が8ch になっています。

高サンプリングレートがIO数に影響を与える一例でした。

検索しても目ぼしい類似記事が無く一般化できませんが、高サンプリングレートでマルチマイクのレコーディングをする場合など、インプットが足りるかどうか、留意する必要があるかもしれません。

サンプリングレートと再生速度

二種類のサンプリングレート

DAW で扱うサンプリングレートには二種類あります。

一つは、DAWのプロジェクトがオーディオデータを読み込む(再生)/書き込む(録音)サンプリングレート。もう一つはオーディオデータ自体のサンプリングレート。

Cubaseの表示例。上がプロジェクトのサンプリングレートで下がオーディオのサンプリングレート

この2つのサンプリングレートは、オーディオの再生速度と深い関連があります。

プロジェクトのサンプリングレートが44,100Hzであれば、1秒間を44,100分割の細かさでオーディオを読み取ることを意味します。

逆に読み取られるオーディオデータが、たとえ同じ1秒間の尺であっても44,100分割未満の細かさだった場合(44,100Hz未満のデータだった場合)、1秒足らずの尺になって再生されてしまうことを意味します。

44.1KHz と 32KHz のオーディオを44.1KHz のプロジェクトに読み込んだ
両方とも1秒尺で作成したが、32KHzの方は1秒未満の再生秒数となっている

本来1秒のはずのオーディオが1秒足らずで再生されるので、再生速度が速くなったといえます。


計算式にすると、以下のように考えられます。

「再生秒数(ミリ秒) = 1,000×オーディオのサンプリングレート / プロジェクトのサンプリングレート」

オーディオが48KHzでプロジェクトが44.1KHzの場合、再生秒数は約1,088ミリ秒。元が1,000ミリ秒のオーディオなので、再生速度は少し遅くなります。

オーディオが32KHzでプロジェクトが88.2KHzの場合、再生秒数は約360ミリ秒。再生速度はかなり速くなります。

また、再生速度が速くなる分ピッチは高く、遅くなる分ピッチは低くなります。

ターンテーブルとアナログレコードの例

類似例として、ターンテーブルとアナログレコードの関係が挙げられます。

下の画像、左は広く知られた technics DJ用ターンテーブルの回転数切り替えボタン。右はとあるアナログレコード記載の再生回転数。単位はrpmで、一分間あたりの回転数を意味します。

これが一致して、レコードの意図する音が再生されます。仮にターンテーブル側を45rpm にすると、本来の音よりもテンポが速く再生されます。

ターンテーブルのrpmがプロジェクトのサンプリングレート、レコードのrpmがオーディオのサンプリングレートと置き換えて考えることができます。

結果、以下の動画のような状態となります。

Wrong Speed

44.1KHzのオーディオを48KHzのプロジェクトで再生するのは、これと同類の状態です。

オーディオのサンプリングレート自動コンバート

ただ、多くの場合、プロジェクトと異なるレートのオーディオがロードされると、自動的にリサンプリングしてプロジェクトのレートにコンバートする機能が働くので。こういった問題が頻発することは基本ありません。


Cubase では、「環境設定 / 編集操作」にある「プロジェクト設定に従い変換し、必要に応じてプロジェクト設フォルダにコピー」にチェックを入れておくと、プロジェクトと異なるレートのオーディオを自動的にコンバートしてくれます。

Cubase でのサンプリングレート確認・変更方法

オマケとして、Cubase上でサンプリングレートを確認する方法を説明します。

プロジェクトのサンプリングレートを確認・変更する方法

最初に、プロジェクトのサンプリングレートを確認する方法。

左上メニュー「プロジェクト」 → 「プロジェクト設定」 → 「録音ファイル形式」のサンプリングレート

ここの数値が、現在のプロジェクトのサンプリングレートです。

「録音ファイル形式」とありますが、再生時のサンプリングレートでもあります。変更はドロップダウンから。

ちなみに、画面上部のステータスラインが開いているなら、ここを見れば一目瞭然。レートを直接クリックすると、上の「プロジェクト設定」が開きます。

ステータスラインはプロジェクト画面右上の「歯車アイコン」より表示できます。

オーディオのサンプリングレートを確認・変更する方法

次に、個別のオーディオのサンプリングレートを確認する方法。ざっくりと二つあります。

一つ目は、オーディオリージョンをダブルクリックし、サンプルエディターを表示させ、画面左上を確認する方法。

二つ目は、オーディオリージョンを右クリックし、「選択イベントをプール内で検索」をセレクト。オーディオプール画面から確認する方法。

もしプロジェクトとは異なるサンプリングレートのオーディオがまぎれていた場合、手早くリサンプルしてしまいましょう。

オーディオリージョンを右クリックし、「処理 ➡ リサンプル」でプロセッシング画面を開きます。

「新しいサンプリングレート」欄に希望のサンプリングレートを入力し、「適用」でOK。

尚、プロセッシング画面左上の「自動適用」にチェックが入っていると、勝手にコンバートが始まります。必要でない限り、ここのチェックは外しておいたほうが良いでしょう。

まとめ

以上、手短ではありますが、サンプリングレートに関する説明でした。

内容をまとめると、以下のとおり。

  • サンプリングレートは時間軸方向の書き込み・読み取りの細かさである
  • サンプリングレートは、通常44,100Hz or 48,000HzでOK
  • 高サンプリングレートは、ケースバイケースで判断
  • DAWで扱うサンプリングレートは、プロジェクト側・オーディオ側の2種類ある

基本的に、サンプリングレートは一旦セットしておけば、四六時中意識すべき類のものではありません。とはいえ正確に理解しておくことで、適切なDAW操作やプラグインセッティングの助けになるのは間違いありません。

尚、サンプリングレートの重要なトピックスに「ワードクロック」がありますが、これは別の機会に説明します。

以上です。

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