NickyRomero - EDMフリークであれば必ず耳にしたことがあるであろうプログレッシブ系のプロデューサー。彼もまた他のメジャーな若手EDMプロデューサーと同じく20代前半でブレイクを果たしシーンに躍り出ます。
しかしデビュー当時は今のようなキャッチ―でメロディックなピークタイム向けシンセサウンドではなく「唸るローエンドに武骨なスタッブ連打」というあくまで客を踊らせることを目的とした職人気質な楽曲でした。ただその裏には Romero なりの緻密な計算が隠されていたようです。
ここでは彼が David Guetta と共演を果たし、名実ともにトッププロデューサーの一人となった2012年ごろに実施されたインタビュー(FutureMusic誌2012/3月)を元に、そのコメントに解説を併記する形で記事にしました。
Romero はデビュー前、いったい何を考えてスタジオワークにいそしんでいたのか、その一端が垣間見える内容です。
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① トライ&エラーが機材独習の秘訣
厳密にいえば、Romero が楽曲制作を開始した時にも周辺に楽曲制作のノウハウにまつわる情報はそれなりにあったはずです。
ただ知識として知っていても意味は無く、自身のサウンドメイキングに生かすには直接何度も触って音の変化を体感し耳で慣れていくしかありません。Romero はエフェクトの原理は分からなくても、モニタースピーカーのサウンドの微細な変化を正確に把握し得ていたようです。
どこまで知識を学んだとしても、楽曲制作は最後は「スピーカーからどんな音が出ているのか?」というきわめて具体的な事象と格闘し続けることでしか作品を磨くことが出来ません。
知識を頭にいれたら、各パラメーターによって音がどう変化するか、ミリ単位の違いも聞き逃さないようモニタースピーカーの音に集中しましょう。
尚、ひとつノウハウを習得すると嬉しくなって所かまわず使ってしまうのは良くある話です。楽曲制作は何かにつけて「バランス」がキーワード。一つのノウハウだけで楽曲が一気にブラッシュアップされることは基本的に無いと心得ましょう。
② “自宅スタジオ”以外の環境で聴くことの重要性
「プロの楽曲と同じような音にならない」楽曲制作初心者がもっとも頭を悩ませるテーマがこれです。
Romero が指摘しているように、自室を改造しただけのスタジオ空間は周波数のピーク・ディップあるいはフラッターエコーなど、多くのアコースティックに関する落とし穴が潜んでいます。
アレンジや音楽理論にまつわる至らなさはまだしも、この手の問題は経験者に指摘してもらうか、外部のスタジオ等で音源をチェックすることでしか自覚することが出来ません。音楽雑誌やネット記事で知識としてはあってもそれが具体的に音にどう影響するのかイメージできないのです。
彼はこのジレンマを、足しげく自作音源を外部環境に持ち出してチェックすることで克服します。Romero の言う通り「完璧な音に仕上がった!」と思ってもそれがアコースティック的に整備されていない環境であれば喜ぶのは早計です。
面倒をいとわず何度も外部環境で聴き比べを続けることで、サウンドの磨き方のみならずアコースティックに対する理解が急速に深まるでしょう。
③ プロデューサーはDJ視点をもつべき
一昔前、ざっくりいえば2010年以前は、DJたちがギグやショウの案件をとるため、またツアーで稼ぐための手段として楽曲をリリースするケースが多かったようです。今はどちらかといえば逆で、楽曲制作ありきで結果的にDJをやることになるケースが多いようです。特に若年のEDMプロデューサーはその傾向が高そうです。
ここでの Romero の話は一晩通してフロアを受け持つレジデントDJとしての心構えで、大規模なフェスで時間制限付きのDJとは若干意味が異なる点に注意が必要です。
とはいえいづれもオーディエンスを踊らせることが使命であることは変わりません。
プロデューサーがDJの視点を持つことは「オーディエンスは何に踊るのか?」ということにフォーカスするきっかけとなります。単なる音楽理論や機材の使い方を超えた楽曲全体を俯瞰するメタ視点を持つことになり、言うまでもなく大きな強みとなります。
もし知り合いにDJがいるなら自分の曲を聴かせて「客が踊るかどうか」という視点から忌憚ないアドバイスをもらうと良いでしょう。一般の音楽関係者からは得られない新鮮な視座から自作音源を評価する良い機会です。
④ 下積み時代の最大の発見
EDMプロデューサーは皆独自のサウンドを築き上げてからシーンに殴り込みをかけます。Romero の場合はそれが低音域、具体的にはキックとサブベースのコンビネーションで、その造詣の深さは玄人DJの David Guetta をして「どうやってこのキックを作ったのか?」と唸らせるほどでした。
オーディエンスは低音域に踊り、中音域以上に歌うと私は考えています。彼はDJの経験からこの事実を早い段階で察知しており、クラブミュージックにはローエンドのコントロールがきわめて重要と理解していたようです。
Romero の当時のノウハウはトレンドの変遷から今では即効性あるノウハウではありませんが、低音域の充実、具体的にはベースサウンドを複数層にレイヤーし個別に適正バランスをとるようなアプローチはひじょうに大切です。ここの調整を疎かにしてしまうと、他がどれだけ適切に処理されていてもダンスミュージックとしての価値は大きく減退してしまいます。
ジャンルを超えて津々浦々に普及しているダッキング系プラグイン「Kickstart」に彼の名が添えられていることからも、Romero のキック・ベース・サイドチェインに対するこだわりは伊達ではないと言えそうです。
⑤ 集中して“聴く”ことの重要性
他の楽曲を聴き込んでその手法を盗むというのは、EDMのみならず音楽学習一般において当然の姿勢です。ただEDMは理論やアレンジ面よりもミックスやサウンドデザインにその重心が置かれているため、スピーカーの出音に対して求められる集中力は並大抵ではありません。
またエディット面や楽曲展開に関してもプロデューサーはしつこくリファレンスと比較し、イントロからドロップに至る流れの推敲を重ね、何層にも塗りなおす漆塗りのごとく気になる部分に躊躇ない改良を加えていきます。
このように地道で泥臭いリファレンスとの比較経験を経て初めて、自分の中にEDM制作のための判断軸が形作られていくことになります。
⑥ ブレてはいけない
最後に Romero はEDMで成功したいなら「情熱と規律」を持つように強く促します。
そもそも音楽に関連するスキル自体が長きに亘る習練によってしか獲得しえない、きわめてストイックな姿勢が求められる領域であるということ。それに加えキャリアを押し進めると必ず契約と金銭にからむトラブルが多発するのがある種音楽ビジネスのお約束とも言えます。
前者はまだしも後者の問題は、音楽制作者にとってクリエイティビティを阻害する大きな悩みの種。そのため Romero は自分の本懐を何度も確認し、スタジオワーク以外に自分の軸足をずらすことがあってはならないと説いているわけです。
楽曲制作者にとってキャリアの核心部分はスタジオの中にあります。周囲のノイズに惑わされてそこから遠のくことが無いよう、彼のこの言葉を折に触れて思い出したいものです。
まとめ
彼が語っていた内容をまとめると以下のとおり。
- 自作音源は面倒でも外部環境で比較試聴せよ
- DJ経験はEDMプロデューサーにとってメリット多し
- EDM制作において低音域調整はきわめて重要
- 成功したいならブレてはいけない
NickyRomero は一時期の勢いはないものの、今でもEDM界隈の第一人者の一人であることは誰もが認めるところです。
DJ 以外になんらの音楽的バックグラウンドを持たない彼がごく短期間でキャリアを劇的に進展せしめたのは、尋常でない行動力と運によるところも大きかったかもしれません。
ただそれは結果論に過ぎず、大本は彼の音楽に対する哲学、具体的には Youtube 上で彼がしばしば言及している以下のコメントに集約されているといえます。
「EDMで成功したいなら、毎日スタジオに入れ」
音楽制作者にとってこれ以上本質的な言葉は無いでしょう。ゆめ忘れることが無いようにしたいものです。
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※ この記事は、FutureMusic誌 2012年3月号のインタビュー記事を抜粋翻訳して作成しました。