私はプロのDJではありませんが、仕事柄4つ打ちのハウス系DJの方に接することが多く、運よく彼らの選曲基準を知る機会に恵まれました。
特に勉強になったのが昔、自分が良いと思った楽曲セレクションをベテランDJに聞かせてそこから良曲をピックアップしてもらうという経験で、何度となく繰り返すうちに先回りして彼らが好むであろう曲の目星をある程度つけることが出来るようになりました。

traktor のプレイリスト / 曲が彼らにプレイされると誇らしげな気持ちになる
もし今クラブミュージックを制作されているのであれば、彼らの基本的な考え方を理解した上で DJ フレンドリーな楽曲に仕立てることで、より多くのDJのプレイリストにキープされる可能性が高まることになります。
DJプレイのノウハウは個人差が大きく体系化のむつかしいトピックスですが、おそらく彼らの多くが共通して感じているであろう事がらを、楽曲制作者の視点から知っていて損ではないと思われることに絞ってご説明します。
この記事は
- DJの選曲基準を知りたい方
- クラブミュージックを作られている方
- DJは盛り上がれば何でもOKと思っていた方
におススメです。
※ この記事は約5分で読むことが出来ます。

ジャンル
ジャンルの区分について
個人的に感じることですが、クラブミュージックのジャンルには親和性のあるものとそうでないものがあるように見えます。
例えばディープハウスやテックハウス、相互のジャンルの乗り入れや両方の要素を含んだ曲は珍しくなく、同一のDJセットでもプレイできる余地があるため親和性は高いと言っていいでしょう。
そして以下の曲
一聴してテックハウス風に感じますが、ディープハウスのセットに入れることもできそうです。DJによってはこれでフロアを温めて最終的にテクノ方面に引っ張ることもあるかもしれません。
一方でトロピカルハウスとダブステップなど、どう見ても別物とわかるジャンルの曲は同一セット内でプレイされる機会は限りなく低く、これらは親和性が低いと考えます。
プロデュース方針として
ここで言いたいことは
リリースを重ねて世に知られることを目標にするなら、親和性の高いジャンルの周辺を主戦場にするほうがメリットが多い
ということです。理由は以下のとおり。
- ブランドイメージを維持しやすい
- 制作ノウハウ蓄積の面で有利
1つめに関して、長く活動を続けるにつれ DJ から「このプロデューサーはテクノ畑の人だね」という風にざっくりしたジャンル区分けでリリースを識別されるようになります。
また楽曲を待ち望むファンにとっても、いままでの一連のリリースにそぐわない親和性の低いジャンル曲を出してしまうと唐突なスタイル変更と感じられるかもしれません。
こういったことから、親和性あるジャンル周辺で活動するとスムースなブランドイメージ構築に一定の効果があるように見えます。
2つめに関して
「テックハウスを作ろうとしていたらプログレッシブっぽくなった」
「ディープハウスを目指したらトロピカル風になってしまった」
という “制作あるある” から伺えるように、近接しているジャンルは制作上のノウハウをシェアしていることが多く流用できる部分が大きいようです。
トレンドの変遷もあるので長い目で見れば制作スタイルの移り変わりは当然あります。ただ短期間でジャンルを転々とする人よりは、ノウハウの蓄積という意味で有利に働くでしょう。
最終的には何を作ろうが個人の自由で神経質になりすぎるのも良くないですが、こういった事情を考慮して制作楽曲の方向性を絞るのも一案では無いかと思います。
親和性の高いジャンル
以下は親和性が高いと思われるジャンル区分けの例。
- 【ダブステップ / トラップ / フューチャーベース】
- 【フューチャーハウス / フューチャーバウンス】
- 【ディープハウス / トロピカルハウス】
- 【ディープハウス / テックハウス】
- 【テクノ / トランス】
- 【テックハウス / テクノ】
- etc
私の主観が混じった曖昧なものなので突っ込みどころは多々あろうかと思います。私見の一つとしてご覧ください。
もしごひいきのプロデューサーがいるなら、過去のリリースをチェックしてどこまで活動ジャンルを広げているかチェックしてみてください。おそらく一定の傾向が見られるはずです。

体感スピード
ミックスの流れ
同じテンポ同じジャンルの楽曲同士でも、体感速度とそれに由来する熱気・テンションの違いをDJは詳細に見定めています。
客の小休止として意図的にフロアを落ち着ける場合は別として、基本的には「体感速度遅め ➡ 速め」になるような方向性で楽曲をつないでいく傾向があるといえます。
このことから
「体感速度速め ≒ 盛り上がる楽曲 ≒ DJ好み」
という相関関係がある程度期待できそうです。無意識にでも「なんかこっちの曲の方がドライブ感があるね」と感じればそちらの方が「切り札」感の高い楽曲と認識される可能性があるわけです。
体感速度の速い楽曲・遅い楽曲
杓子定規に考えるのは禁物ですが、体感速度の速い楽曲は以下のような条件を満たしていることが多いと感じます。
- 拍頭にライド・スネア・クラップがある
- スイングが無くストレート
- 裏拍を強調しすぎるバッキングやオープンハットが無い
- 16ビートのシェイカー・タンバリン等がある
- ボーカル・ラップ・メインリードが16ビートでタイトなフレーズ
- 曲全体がやや前ノリ
次に遅く感じる楽曲。
- 裏拍に力点がある
- 2・4拍にスネアがある
- スイングレートが高い
- フィルのたびに小さなブレイクが入る
- 曲全体がやや後ろノリ
速い遅いは相対的なもので、多くの要因が複雑に絡んでいて容易に一般化は出来ませんが、たとえばEDMドロップのド頭で休符なく間髪入れずファットなリードが投入されれば「前のめり感」は確かに強いといえます。
そしてスイングレートが高いと横方向の揺らぎ感はでますが、疾走感という点ではやや物足りないかもしれません。
テンポが同じにもかかわらず体感速度がまったく異なるというのはDJであればよく知ることです。その違いは上記のような細かいグルーブコントロールに由来するのでは無いでしょうか。

楽曲構造
DJが楽曲をチェックする際、当たり前ですがイントロからブレイク・ビルドアップを経てドロップに至る一連を聴いた上で選曲しています。けっして「ドロップだけのつまみ聴き」をしている訳ではありません。
・・・スムースなイントロとドロップを予感させるフレーズで客の期待を煽り、ブレイクからのコーラスでリードボーカルに合わせて(客が)熱唱。そこから長めのビルドアップで盛り上げて、ドロップで恍惚感と開放感に浸らせる・・・
という風にざっくりとオーディエンスの反応をイメージしながら聴くわけで、自然なフローに水を差す客足が止まるようなアレンジ・エディットや、盛り上がりに欠けるドロップなどは敬遠されがちなようです。
DJによってどこまで意識しているかは定かではありませんが、留意すべき要素は以下のようなもの。
- キャッチ―でないコーラス
- 音の少なすぎるファーストドロップ
- 「歌える」要素の乏しいドロップ
- ドタバタ感のあるフィル
- 自己満足なエディット
- 音色頼みで音楽性の薄いアレンジ
- 楽曲エディットが単調
- 前後につなぐ曲と大きく異なるミックスバランス
個別に語ると長くなるので立ち入りませんが、制作中の楽曲が上の要素を多く含む場合あまりDJフレンドリーではないと言えそうです。
これを踏まえたうえで Swedish House Mafia や The Chainsmokers などの大御所の楽曲をチェックすると、多少の例外は有れど上記のポイントを上手く回避して丁寧に作られていることが分かります。

プレイの時間帯
DJ は多くの場合似通ったジャンルの中でも
- フロア温め用(早い時間帯)
- 中継ぎ用
- ピークタイム用(遅い時間帯)
- レスキュー用(リリーフ)
など、野球の投手登板のごとく楽曲のプレイ時間帯を想定してオプションを検討することが多いようです。イベント等でプレイ時間に区切りがある場合でも、一晩受け持つレジデント形式の場合でも基本的発想はだいたい同じかと思います。
楽曲を作る際、自分の曲がどの時間帯を想定しているかだいたい目星をつけておくと良いでしょう。
プロデューサーとしての自分の立ち位置や制作中の楽曲の特徴を、プレイ時間帯という視点から把握しているとより納得感をもって制作に臨めるかと思います。
「ピークタイムでバカ踊りさせるには、ビルドアップを念入りに長めにしなきゃだめだね。」
「セット序盤で流したいからあっさりしたドロップでOK。その代わりブレイクはキックを抜く程度でテンションは下げ過ぎないように。」
という風に、想定する場面にフィットした手法を選ぶことでより DJ フレンドリーで合理的な楽曲のアレンジ展開が可能になります。

歌詞・歌唱スタイル
頻繁にお目にかかることは無いですが、まれに歌詞・歌唱スタイル・楽曲アレンジの組み合わせが不自然な曲に出くわすことがあります。
古い例で恐縮ですが以下は10年ほど前のエレクトロハウス系のリミックス。一聴して何が問題かよくわからないと思いますが、DJ の意見は以下のようなものでした。
- 歌詞内容(別れがテーマ)と楽曲の雰囲気がマッチしていない
- スローな歌唱をバッキングが小刻みに強引に盛り上げており不自然
かなり細かいある種些末な指摘で、言われて初めて気が付くレベルです。
当時何の疑問ももたずこれをプレイしたDJは沢山いたと思いますが、ポイントはそういう部分まで踏み込んでチェックする DJ がいるという事実で、指摘を受けて聴きなおしたら不思議と「確かにそうかも・・」と感じる余地はあります。
ただ海外のヒット曲でこの手のミスマッチはすぐには見つからないようで、制作時にボツ案として排除しているのかもしれません。
「かっこよく仕上がったから結果オーライでしょ」とは考えずリスナーやDJが感じるかもしれない違和感を排除する見えない努力があるのかもしれません。
もし制作時にボーカルをフィーチャーする場合があるなら、歌詞・歌唱スタイル・楽曲それぞれの組み合わせに必然性の乏しいアプローチは避けたほうが無難と言えそうです。

まとめ
以上 DJ の選曲基準についてご説明いたしました。DJプレイに関しては他にも様々なトピックスがありますが、長くなるのでこの記事では省きました。
ここで述べた事項を自身の楽曲制作にあてはめたらすぐに上手くいく、ということは無いでしょうが
意識して作っている人と何も考えずに作っている人とでは、長期的に天と地の差が出てくるのではないか
と考えています。
念のため、ご説明した選曲基準はあくまで幾人かの DJ の見解に過ぎない点を強調しておきます。人によって異論はあるかとおもいます。
ただDJの選曲視点から自分の制作している曲を見つめなおすことで自己満足に陥らない、いい意味で「的を得た」楽曲プロデュースが出来るのではないでしょうか。

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