【DTMあるある】モニタースピーカーを台無しにする5つのエラー

  • 2021年5月22日
  • 2021年12月18日
  • 制作

「楽曲制作にとってモニター環境は大切」と頭で分かってはいるけど、自分の作業環境にどんな問題があるのか、具体的に自覚するのは難しいもの。

作曲やアレンジに関する違和感は「なんかおかしいぞ?」と気づくこともあるでしょうが、モニター環境による出音の違いはファジーな部分が多く、強く注意を働かせないとなかなか気づけない。これがこの問題のもっともタチの悪い点なんです。

ここでは、私自身が過去に経験したモニター環境にとってNGな行為を5つご紹介します。

改善して初めて「どれだけ音に悪影響があったか」後で気づくことが多く、かなり悔しい思いをしました。なのでこうやって地雷回避のための注意喚起をする次第です。

この記事は


  • 自分のモニター環境がどういう状態かよくわかっていない
  • モニター環境がなぜ大切なのかそもそも知らない
  • なぜかミックスがいつも上手くいかない

といった方におススメです。

1、スピーカーとリスニングポジションの間に遮蔽物がある

スピーカーとリスニング位置の間にありがちなもの、それは多くの場合ディスプレイになるでしょう。

ディスプレイ位置に関して理想を言えば、向かってスピーカーと同じ方向でなく座席の右側等のサイドに置くのがベスト。モニター音への影響を大きく軽減できます。しかしこれはスペースの都合、作業しやすさの観点からむつかしいことも多そうです。

であれば少なくとも


  • ディスプレイの位置はスピーカーより前にしない
  • スピーカーよりも低い位置が望ましい

の二点はなんとか押さえておきたいところ。

そもそも私は目が悪く、アームで取り廻しているために、無意識にディスプレイを眼前30センチ程度まで手繰り寄せることが良くありました。歯科医がライトを手繰り寄せる感じで。

これが良くありませんでした。

赤枠の位置にディスプレイをもってくるのはNG

ディスプレイアームは便利だが知らぬ間に
モニター音をふさぐ位置にディスプレイがあることも・・

明らかに不吉なポジションですが、音が急変するわけではないので問題をスグには自覚できないんですね。一言で表現できない出音ですが、低音域の定位感がかなり犠牲になっていたと思います。

すったもんだあって最後には問題に気づきましたが、その時のミックスはひどいもんで、不安定なモニター環境はモロに楽曲の質に影響することを再確認した苦々しい出来事でした。

ともあれスピーカーとリスニング位置の間に遮蔽物を置かない、これ鉄則。

2、中継機材がやたらと多い

もしインターフェースとモニタースピーカーの間になにがしかの中継機材を挟んでいるなら、一度すべて外して最短で接続してみることをおすすめします。

理由は中継機材・ケーブルなどが原因でモニターの音質が劣化している可能性があるからです。定位感の喪失、解像度、SN比の低下など。

機材ルーティングのデザインは楽しいが
音質劣化のリスクと隣り合わせ

いったん最短経路で直結し、それからひとつづつ中継機材を戻していきましょう。そうすれば明らかな音質劣化があった場合に、どの機材が悪さをしているかかすぐに特定できます。

「まあ多少ノイズがのってるくらいでしょ?」と侮るなかれ。

私自身余計な中継機材・粗悪なケーブルを排除して、「不明瞭な定位感」を大きく改善させたことがあります。これは楽曲の品質に直撃する大きな要素。


こういった中継機材でよくあるのが、アナログミキサー、ラインミキサー、パッチベイ、モニターコントローラー、サブウーハー、その他カスタム機材など。とくに廉価なもの、中古品は注意です。

廉価品は音が悪くなっても良くなることは無い

マシン内部で完結する方には無縁な話ですが、アウトボード類を制作プロセスに組み込んでいる方は、それらがモニター音質に与える影響を最低一度はチェックすべきかと思います。

3、スピーカーを壁際に配置している

もしかしてモニタースピーカーを壁際に配置していないでしょうか?

「低音がリッチで逆に壁際が良い」という方もおられますが、それはフラットなスピーカーの出音からは程遠く、設計者が意図しない歪められたものになっている恐れがあります。

理由は壁際に必ず発生する音のたまり場、「定在波」がモニター音低音域の定位感の喪失・解像度の低下等を引き起こすから。

定在波はいわゆるモコモコ・ボヤボヤした低音の犯人です。

これを放置すると


  • 低音域のEQ調整等がバシッとハマらない
  • モノラルセンターのはずの音がぼやける
  • 作業時間が無駄に長くなる

などなど制作に深刻な悪影響を及ぼしてしまいます。

壁際にスピーカーを配置すると低音が不必要に増幅される

まずすべきはモニターを壁から離れた位置に置く(できれば70センチ以上 ※)、そのうえで定在波を緩和するためのさらなる措置をとることです。

定在波の詳しい原理と対処法は、以下の記事でかみ砕いて説明しています。


➡ 関連:「モニター環境劇的改善のための「定在波」6つの常識


この定在波は、ルームアコースティック(いわゆる部屋鳴り)問題の八割を占めるかなり厄介なもの。とはいえ吸音材を使わずとも、スピーカーとリスニングの位置を変えるだけでもある程度対応可能です。

できる部分から手を付けて、クリアな低音イメージ奪還を目指しましょう。

(※ 部屋のサイズ、スピーカーの型による)

4、モニター音量が小さい

近隣の騒音苦情を避けるため、小さめの音量でスピーカーを鳴らす・・。仕方ないこととはいえ、これはミックスにとってあまり良い条件とは言えません。

なぜなら

小さい音量でモニターすると低音域・高音域が聞こえにくいため、結果それらが無駄に強調されたミックスになってしまう

からです。

これは、人間の耳はモニター音量が大きくなるほど「中音域 vs 低音域・高音域」の聴感上の音量差は小さくなり(フラットに近づく)、逆にモニター音量が小さくなるほど聴感上の音量差は大きくなるのが原因(低音域・高音域がより小さく聴こえる)。


➡ 参考:等ラウドネス曲線 – 2003年度改訂版


また、モニター音量がある程度確保された状態は「対象を虫眼鏡で拡大している」のに似ており、解像度高く、細かく音の状態を把握するのに適しています。とうぜん精度の高いEQやダイナミクス調整が可能。

逆に言うなら、音量が小さいとこの辺りの調整がどうしてもラフになってしまうということ。


あくまで個人的な感覚ですが、耳に過大な負担がなく、出来る限り各音域がフラットに聴こえるモニター音量は、

80~85dB周辺

だと感じます。

モニターから1m前後離れた位置でこのくらいの数値。実際騒音計で測ってみると、うるさく感じる一歩手前がだいたいこのあたりの音量になります。

いつもモニターする音量を測定してみた
音圧高い部分でこの位

これはモニターの型式で大きく変わることが無いようで、私の使ったことのあるモニター(Ns-10M、GENELEC1031A、Focal cms50、etc)全部この辺りが適正音量でした。

ただ残念なことに80~85dBというのは、一般の住環境では近隣苦情に直結するうるささ。

なので昔、防音環境に無い頃はアレンジまでを小さめの音量で済まし、最終ミックスは外部のスタジオで爆音を出し、2-3時間で集中して終わらせるという風にしのいでいました。

近隣の騒音苦情が発生すると、モチベーションがダダ下がりになる
弊スタジオは苦情を受けたことはない

防音環境を手に入れるまでは、どうしてもモニター音量が最大のハードルになるでしょう。ここが正念場と言えます。


最後に、騒音計は小さなもので良いので一つ持っておくと便利ですよ。

モニター音量が適切かどうか、部屋からどの程度音漏れがあるか即座にチェックできます。また過大なモニター音量を自覚できるので、耳の健康維持にも有効。10年以上前の古い型ですが私も一台持っています。

宜しければ以下からどうぞ。

簡単に操作できるデジタル表示の騒音測定器です。 風音防止のためのマイクカバー付きで、音量最大・最小のデータ記録が可能。

5、自分の「部屋鳴り」の状態を知らない

「今まで部屋鳴りに注意を払ったことが無い」。それはたぶん皮膚感覚で問題に触れたことが無いからだと思います。

我々が耳にするスピーカーの音は、5-8割が部屋の反射音と言われています。

その反射音がさまざまな「部屋鳴り」問題を引き起こすわけですが、それをざっくりと把握できるのが、「20Hz から 20KHz のサイン波スイープテスト」

このテストをやったほうが良い理由は以下の2点。


  • 今すぐできる
  • いかにモニター音が反射音の悪影響を受けているか「自覚」できる

ということで、以下のテストトーンをリスニング位置で聴いてみてください(最初の一分は超低周波なのでスキップ)。あと音量に注意してください。

(テスト信号)スピーカー再生能力チェック -全周波数詳細編-

どうでしょう?

特段の部屋鳴り対策をしていない場合、「モノラルセンター」「音量一定」とはかなり違った聴こえ方ではなかったでしょうか。

例えば以下のような聴こえ方。


■ 帯域によって音圧が上がって聞こえる or 下がって聞こえる
 ➡ リスニング位置で定在波が発生している
 ➡ 参考:「モニター環境劇的改善「定在波」6つの常識」

■ 定位感がくるってオートパンのようになる
 ➡ 一次反射音、スピーカー配置等が原因で左右の音圧がバラつく
 ➡ 外部リンク:「モニタースピーカーの音質劇的アップ術」


細かな対処法には立ち入りませんが、このように反射音の影響を耳で聴いてみると、具体的な部屋の問題点が浮き彫りになってきます。

これらは確実にモニター音に悪影響を及ぼしており、制作楽曲の品質が上がらない大きな要因に。

とはいえ自覚の難しい「部屋鳴り問題」に気づけたのは大きな前進です。ここではそのきっかけとして、それを知るやり方をご紹介しました。

あとはひとつづつ改善すれば、遠からず制作にとって数多くのメリットがもたらされるでしょう。

関連記事

本記事に関連する内容の記事です。

まとめ

折に触れモニター環境改善を励行していて感じるのは、

良くないモニター環境でも楽曲制作はできるが、改善余地があるなら「絶対」にやったほうがいい

ということ。

その影響はミックスのみならずアレンジ作業にもおよび、品質の向上もかなりハッキリ自覚できます。作業プロセス時短化にも当然効果があるでしょう。

つまりモニター環境改善の波及効果の範囲はかなり広いんです。

正直「こんな影響があるなら、もっと早くやっとけばよかった!」「この間かなり時間を無駄にした!」というのが改善した後での偽らざる感覚。

「なんかいい曲に仕上がらないなー」という方、もしかしたらそれはアナタのスキルやセンスでなく、モニター環境の方に問題があるのかもしれません。  

以上です。