楽曲制作の機材のなかで、もっとも効果の分かりやすいエフェクトの一つですが、ある程度経験が無いと適切に効いてるかどうか判断が難しく、煮詰まってしまうことも珍しくありません。
ここでは、日頃 EQ を使用していて独りよがりになることの無いように、心がけているポイントを7つご紹介いたします。正しい答えに行きつくかは分からないが、少なくともダメEQの回避率はアップする、そういった内容を集めました。
この記事は
- 客観的にEQ出来てるかどうか自信が無い
- EQで煮詰まることがけっこう多い
- 何でも EQ で解決しようとするクセがある
といった方におススメです。
① 煮詰まったら一旦すべてオフ
アレコレ EQ しててにっちもさっちも行かなくなった場合、以下の手順で対応すると良いでしょう。
- ① 挿している EQ をすべてオフ
- ② 音量バランスをとりなおす
- ③ 必要最小限の EQ だけを使って調整
①
EQの無い素のサウンドが不本意な出音であっても、構わず全部オフ。EQ慣れしてしまった耳をいったんリセットします。
②
次に、音量をゼロにしてから再度セット。EQ の無い状態で音量をセットすると、そのサウンド本来の「おいしい部分」「聴かせたい部分」がもっとも映える音量になるはずです。
EQ で煮詰まるとき、往々にしてそのサウンドをミックス内でどう聞かせたいかのフォーカスがブレている可能性があるため、それをいまいちど確認するための意味があります。
③
あとはその「おいしい部分」を損なわないよう注意しつつ、必要最小限の EQ でミックスに馴染むように EQ をセットします。原音の良さを生かすのがポイント。
大量にEQをしたなら、要不要を一度振り返るのは意味がある
② 逆のEQも試す
「キーボードをマスキングしないようギターをEQでカット調整していたら、逆にブーストしたほうがキーボードとの溶けが良くなった」というような、目論見と逆の方が良かったということが往々にしてあります。
ミックスを検討している際
- 「ハイをブーストしてヌケを良くしなくてはならない」
- 「アタック感を強調しなくてはならない」
- 「奥行き感を出さなくてはならない」
といった一方行の思考パターンに知らず知らず陥っていることがあります。それを中和する意味で、逆も一度は探ってみる癖をつけておくと良いでしょう。これは EQ だけにとどまらない事でもあります。
③ 必要ならEQの前段階にもどる
EQをオフにしたときに、あまりに音が大きく変わりすぎる場合
そのパートのミックス内でのポジションを再検討する、あるいはベロシティやソフトシンセ内のフィルターなど、EQ の前段階に戻って再エディットする方が自然なミックス結果に落ち着く場合が多い
と考えます。
EQは外科手術的な意味合いが強いので、それ以前に改善の余地があるなら、そちらを先にあたるほうが自然なサウンドが得られる可能性がぐっと高まります。
midiトラックがあるならEQせずに問題が解決し得る可能性もそこそこある
もちろんやむなく EQ で強く加工したくなるケースもままあります。例えばフィルターでサウンドを明るくしようとするとキャラクター自体が変化してニュアンスが犠牲になる場合など。
とはいえ必要もないのに原音を大きく EQ で加工するのは、やはり避けるべき。
④ 倍音構成を大きく変えない
③と同じような話です。
スペアナで確認できるピークは、各音色がもつ固有の倍音状態でありその音の個性でもある(特にアコースティック系の楽器)ため、それらをあまり不用意に EQ でカット(ブースト)しすぎたりしなほうが良いと考えます。
各楽器それぞれ個性的な倍音構成をしている
仮にボイシングの都合でピークが重なり、不快なレゾナンスが発生しているなら、midiノートのポジションを変えてもいいかもしれません。音色次第では特定の声部のベロシティを下げるだけで不快なピークが除去できることも。
なので問題があった場合、できるなら EQ の前段階で解決を試みる、その次にやりすぎない程度に EQ で対処。というステップを踏むのが、その楽器本来の自然な音鳴りを生かすコツといえます。
⑤ MS(Mid/Side)は先入観をもたない
EQ を MSモードで使う場合は先入観をもたず、本来の目的に貢献しているか客観的にチェックする癖を付けると良いでしょう。
ということで EQ で Mid/Side をエディットする際、同じセッティングでモードだけ Stereo に変えたものと、どちらが良いか贔屓目無しに比較します。
この時、かなりアナログなやり方ですが、目を閉じて音を聞きつつ「A/B切り替え機能」などを連続クリックしてMSモード / Stereo モードを比較、それがどちらであれ出音が良い方でクリックを止める、というブラインドテストもしばしば行います。
cubase でブラインドテストするなら「A/B」切り替え機能を使うと良い
Side をブーストしたにも関わらず、通常の Stereo モードのブーストの方がステレオ感が自然に強調されるということがよくあり、先入観抜きに音だけで判断すべきだと気づかされます。
Fabfilter pro-Q3 で Side をブースト
普通の Stereo の方が良好な場合もある
なお、MS モードの EQ はオーバーに使うとかなり不自然なサウンドになるので、使う際は少しづつ値を増加し、ちょっとでも音の広がりや位相に異変があれば抑えめにするのが無難でしょう。
⑥ ダイナミックEQは使いすぎ注意
ダイナミック EQ は、スレショルドを超えた分だけをカット/ブーストしてくれるとても便利なもの。
といはいえあまりに多用しすぎると、そこかしこの帯域でカット/ブーストがピークに達してからの戻りが目立つ(ポンピング)ことがあり、サウンドが「ウネウネ」と動く不自然なフィールとなることがあります。
1~3バンド程度であれば気にはなりません。しかし複数ダイナミックEQのプラグインを挿し、それぞれ複数バンドを使用し、それも近似した帯域で強くかけた場合などは要注意です。
神経質になる必要はありませんが、やりすぎるとそういった弊害もある、と頭の片隅に入れておくと良いでしょう。
⑦ ハイエンドは出来るだけ切らない
ハイエンドのヌケは各パートの存在感に関わるし、この帯域があることでサウンドが大きく感じられる面もあります。なので出来るならば、理由の無いハイカットはあまりしないほうが良いと考えます。
とはいえハイハットやアコギのストロークノイズのように帯域的に正面からかち合ってしまう場合など、ハイを抑えなくてはならないケースは多発するもの。
この場合ハイエンドの EQ を以下のように目的別に使い分けます。
- ヌケ/アタック感を維持したい場合はダイナミックEQのシェルビング
- ヌケを維持したい場合はシェルビング
- ヌケをやや抑えたい場合はQの緩いローパス
- ヌケを強く抑えたい場合はQの深いローパス
下に行くほどハイを抑える度合いが強くなっていきます。なので個人的にハイを抑える際は、上から順に試すようにします。
Pro-Q3 のダイナミック/ハイシェルフでハイを抑える
カットが最大になるまでタイムラグがあるため
多少アタック感が維持される
ポイントはいきなりハイエンドをバッサリ切らないよう、段階的に少しづつ「名残惜しむように」抑えていく点。出来る限りハイエンドのヌケを残しつつ、うまく目的を達成できるように上記のEQを適宜組み合わせて試すと良いでしょう。
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まとめ
以上、独りよがりな EQ にならないためのポイントです。客観性が大切ということでややメタな内容となりました。
どのエフェクトでも言えることかもしれませんが、特に EQ は、「左右に揺れるシーソーがだんだん静止に近づく」ような感覚で、正反対のEQも試しつつ徐々に適正値に近づけていく、そういうアプローチで臨むと大きく外れることは無いかと感じています。
制作時の参考になれば幸いです。