ジャンルを問わず楽曲制作に欠かせない存在となったダッキング系プラグイン。面倒なルーティングなしで手軽にサイドチェイン系のグルーブを注入できる便利なツールです。しかしながら反面、シンプルであるがゆえに使用するにあたってのポイントが分かりづらいのも事実。
この記事では私がダッキング系プラグインを使うに際して、日頃から留意しているTips を5つご紹介いたします。
どのコツも小さな内容ですが、知っているとそうでないのでは制作時に迷う時間を大きくカットできるため、その効果はあなどれません。
この記事は
- 今までフィーリングでダッキングしていた
- EDM系曲は深いダッキングがマストと思っていた
- そもそも適切なダッキングがなんなのか知らない
といった方に有効です。
Tip 1
エンベロープは揃えるのが基本
ベース・バッキング・リード等、楽曲中の複数パートにダッキングをかけるなら基本同じエンベロープを選ぶようにしましょう。
理由は単純でそのほうがの音量変化による統一感が得られやすいからです。
杓子定規に決めつけるのは禁物ですが、似た音量変化をするサウンド同志は比較的なじみやすい傾向にあります。レイヤー時にシンセのエンベロープを似た形状に揃えると一体感が出やすいのも、これと同じような効果と言えるでしょう。
エンベロープを統一すると一体感が出やすい
一方複数のエンベロープを一曲の中で使い分けるのももちろんOKですが、試すなら以下の点に留意した上でトライすると良いかと思います。
しゃくれの浅いエンベロープ ≒ サウンドが前面に出る
しゃくれの深いエンベロープ ≒ サウンドが後背に引っ込む
これも理由は単純で、しゃくれが浅いほうが表拍(4つ打ちキックの鳴動する位置)でのアタック感が強いからに他なりません。
目立たせたいリードパート等には浅め、どちらかと言えば背面に位置するパッド・アルペジオは深めという使い分けは試してみる価値はあるでしょう。
とはいえしゃくれ浅めのエンベロープ中心のダッキングを展開しているミックスに、深めのリードサウンドなどが割合マッチしたりするケースもあり、千差万別です。迷ったらダッキングエンベロープは統一しておくのが無難と言えるでしょう。
Tip 2
パートによってかける深さを変える
最初に結論を言いますと、
サウンドを前面に配置したいパートはダッキングの深さを浅めに、後背にひっこめたいパートは深めにする
といいでしょう。
あくまで私見ですが、どちらかと言えば鳴動帯域が低めのパートになるほど深めに、リードパートに近いほど浅めに、というのが個人的にはダッキングのひとつの基準と考えています。
ベースはアタック部分をキックに譲るために深めになるのは仕方ないでしょう。
一方複数レイヤーしているリード同志あるいはリードとバッキングというような、帯域が被るパート同士では、パンチを出したい方を浅めにするなどダッキングの深さを変えてサウンド配置をアレンジすることが出来ます。上手に活用すればミックスにおける隠し味にもなりるでしょう。
ちなみにこれは、インストパートだけでなくスネアやパーカッション等にダッキングする場合にも応用できる考え方です。
Tip 3
リバーブを賢く使う
ダッキングの前段で掛けるか、後段でかけるかで多少リバーブの目的が変わってきます。おおよそ以下のような違いがあり、ケースバイケースで使い分けるといいでしょう。
ダッキングの前段 | ダッキングの後段 | |
メリット | リバーブの横の伸びにダッキングがかかり、特有のグルーブ感が得られる | ヌケの良いリバーブ感を得る |
デメリット | 若干奥行き感を阻害し本来のリバーブ感をそこねる | ダッキングと併用する場合の特有のグルーブ感が得られない |
ちょうどメリットデメリットが真逆になる印象です。
個人的におススメしたいのが、リバーブをセンド送りでかけたのち原音のトラックとリバーブのトラックをバスでまとめてダッキングする手法でしょうか。
原音に影響を与えることなくリバーブ音を積極的にEQ・コンプ等で加工して、音のイメージをおおきく・きらびやかにできますし、必要ならばバスでコンプで絞るなどして原音とリバーブ音の一体感を得ることも可能です。
あと、リバーブトラックでは原音トリガーでリバーブ音にサイドチェインをかけるのも、ぜひ試してみましょう。
原音の裏で邪魔でない程度にリバーブを鳴らしつつ、原音の切れ目で気持ちよくリバーブをスラップバックさせるのがポイント、スレショルドとリリースタイムがキーです。
➡ 参考 cubase サイドチェイン設定&活用のコツを徹底解説
上方向のダイナミックEQでリバーブ音のハイを強調するのもおススメ
エキスパンダーのような効果がある
ダッキング前提のリバーブには原音トリガーでのサイドチェインがよくマッチする
こうした上で、やはり全体ミックスとの溶け具合が良好でない場合、改めてダッキング後段でリバーブをかけると良いでしょう。
前段は音作りとグルーブ感のため、後段は本来のリバーブ感のためという使い分けです。
あと、言うまでもありませんがダッキング前段のリバーブでも浅めにかければヌケの良いリバーブ感を得ることが出来ます。グルーブ感と奥行き感のバランス調整は、軽く試行錯誤してみる価値アリです。
最後に一例として、私の Cubase でのルーティングの画像を上げておきます。
複数トラックレイヤーしているパートでの例
リバーブトラックではリバーブ音を積極的に加工
Tip 4
適正な音量バランスをとった後でダッキングする
絶対のルールという訳ではありませんが、こうするほうが適正なミックスバランスに落ち着きやすいと感じます。
ダッキングするとどうしても強拍でのアタック感が減退してしまうのは避けられません。その状態でバランスをとると、どちらかと言えば適正よりやや大きめに音量をセットする傾向があると感じます。
一方先に適正音量にセットしておくと、ダッキングの際に自然と全体バランスやグルーブが崩れない程度のエンベロープセレクト・深さで調整するようになります。
クラブミュージック等を作っているとどうしてもダッキングを強くかける欲求に駆られますが、こうすることであくまで客観的に見てナチュラルな程度にとどめることが出来ます。
なのでダッキングの際は、
ダッキング前に適正音量セット ➡ ダッキング後に微調整
という手順をまずは試すと良いでしょう。どうしても不自然な場合のみダッキングを先にします。
なお、音量セットは必ずいったんフェーダーを最小にしてからするようにしましょう。
Tip 5
デュレーションに留意する
結構細かい話ですが、ダッキングを深くかける場合エンベロープがどの程度のデュレーションをカバーしているのかは軽くでも意識しておくと良いかもしれません。
例えば kickstart で以下のエンベロープのダッキングについて考えてみます。
レンジ設定が1/4の場合
このエンベロープで100%の深さでダッキングした結果が以下のとおり。
八分音符幅のフレーズの前半アタックが大幅にボリュームダウンしています。
十六分音符幅のフレーズだとほぼほぼ波形が消えてしまいました。ゼロではないものの音量にして-25dBダウン。
これだと拍頭にある16分の音は軒並み存在感を失います。多少ノートレングスを長くしてダッキング復帰後に音が残るようにするなど、何かしらの対応が望まれます。
次に、以下のような付点八分がらみのフレーズ。
上の画像で選択されているmidiノート部分は、ダッキング部分をまたぐためにそのデュレーションがエンベロープよりも長いか短いかでグルーブが大きく変化します。
重箱の隅をつつくような指摘ですが、ここで挙げた例のようにフレーズのデュレーション次第でダッキング結果が大きく変わることは、一応頭の片隅にいれておいても良いでしょう。
【外部リンク】
https://www.g200kg.com/jp/docs/dic/duration.html
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まとめ
以上、ダッキング系プラグインを使用するにあたってのコツをざっと見てきました。
たまにあるダッキングがらみの勘違いが、「ダッキングさせたら何でもクラブミュージック風のグルーブが出る」というものです。これは半分正解で半分間違いと感じます。
確かにダッキングがクラブミュージック特有のグルーブの一助であることは、疑いの余地はありませんが、実際は丁寧に編み上げられたアンサンブルがグルーブの根幹をなします。
なのでグルーブを生むにはまずはアレンジとアンサンブルを吟味検討し、そこで楽曲のリズムフィールやノリを練り込む、そして締めとして最終段でダッキングをかませる、これがダッキングに対する望ましいスタンスでは無いかと思います。
なお、ここでご紹介しているやり方を試してまったく効果が感じられない場合、モニター環境に問題がある可能性があります。
ダッキング系プラグインは適切なセッティングがいまいち分かりづらいツールですが、モニター環境を改善するとグルーブやミックスの変化がかなり正確に聞きとれるようになるはずです。
ご検討ください。