The Chainsmokers が贈るスタジオワーク5つの心構え & 5つのお気に入り機材紹介

  • 2020年10月26日
  • 2021年12月18日
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2014年「Selfie」によってシーンに突然躍り出た EDM デュオ the chainsmokers 、つづく2016年シングル「Closer」で瞬く間に話題をかっさらい、ワールドワイドな人気を誇るEDMプロデューサーとして認知されるに至ったのは御存じのとおり。

この怖いもの知らずの二人組にまつわるインタビューは数多あれど、実は肝心のスタジオワーク・音楽制作について直接語ったインタビュー記事はいうほど多くありません。

リリースが軒並み各国チャートを席巻する、並みいるシングル曲はどのようなこだわりをもって作られたのか? ここでは若干珍しい、The Chainsmokers のスタジオワークについて言及した海外記事を翻訳して解説を載せる形で記事にしました。

後半では彼らの直接コメント付きのおすすめ機材5選も付いています。ぜひご一読ください。

※ この記事は約7分で読むことが出来ます。

① Less is more

僕らがプロデュースを始めたころ、いろんな種類のサウンドを重ね合わせたりするためプロジェクトページいっぱいにデータをロードしたもんさ。独自のサウンドを構築するためにね。でも結局、これって単にミックスをごちゃごちゃにしてるだけ、せっかく選んだメインのサウンドの効果をそこなう結果になってしまっているだけって気が付いたんだ。
ということで今ではどのサウンドを使うかとても注意を払っている。それだけで引き立つような素晴らしいサウンドを探すように努めているんだ。たとえば「Don’t let me down」、メインギターのサウンドに時間をかけたおかげで、たくさんのレイヤーを重ねる必要がなくて済んだよ。
そしてもう一つ、もし「ラウドネス」ってのに関心があるなら音数は少なめするんだ。その分サウンドが良くなる。

Less is more」とは、音楽制作界隈において目新しい言葉ではありません。ただこれを言葉通り実践するのはけっこう難しい話。なぜならトラック数を必要最小限にとどめるには、これ以上トラックを追加する必要は無いが、一方でひとつとして欠いてはならない「必要十分な状態」を目指す必要があるからです。

一見どうということは無いプロセスに見えますが、リスナーが満足するクオリティを目指すわけで適当に見繕ったサウンドでは物足りません。「必要なアレンジの投下 ➡ 各トラックの精査とミュート」を繰り返して、余計な脂肪の無い筋肉質のアレンジを目指しましょう。


尚、「30トラック以下」のような数値目標は不要で、トータルのトラック数がいくつであれ「1トラックでも差し引くとバランスが崩れてしまう」ような均衡状態を目指せば「Less is more」な状態に近づくと言っていいでしょう。

末尾にあるように「Less is more」 はラウンドネス確保にとっても優位に作用します。アレンジ・ミックス・マスタリング等すべての楽曲制作プロセスにとっていいことずくめ、トライしない手はありません。

② インスピレーションは大切に育め

僕らは常にインスピレーションを感じているわけじゃないよ。以前は何週間もスタジオでアイデアをひねり出そうと頑張っていたけど、本当に素晴らしいアイデアってのは生まれるべき時に生まれるってのが今では分かる。そしてその時にそれを捕まえなくちゃいけないってこともね。
時に不都合なタイミングでインスピレーションが湧くことがある。寝ようとしている時、車を運転している時とかね。何とかしてボイスメモに録るなり書き写したりしなきゃいけない。アイデアを押し進める時間の都合がつくときまで、何とかしてそれを留めておくんだ。

あまり深く考えず自由に色んな音を組み合わせて、偶然垣間見えた面白いアイデアを首尾よく捕まえて形にする、そういった偶然性を取り込んだ制作スタイルこそが、いい意味で自分の想定を上回る楽曲を作る秘訣では無いかと考えています。

一方面白みに欠けるのが、既に頭の中にあるアイデアを丁寧に形にしていくだけの制作プロセス。小綺麗に仕上がるものの自分の想定を超えるものが生まれる可能性は低く、数多ある楽曲群から頭一つ飛び抜けるのはやや難しいかもしれません。


ちなみにインスピレーションも重要ですが、同じかそれ以上重要なのが「首尾よく捕まえたアイデアをモノにする」スキル。

日頃からこれを磨いておかないと、せっかく様々な妙案を捕まえても完成された楽曲として仕上げることが出来ません。インスピレーションとスタジオワークのスキルは車の両輪のようなもので、どちらを欠いてもリスナーの琴線に触れる楽曲を作るのはままならないようです。

③ 直感を信じろ – しっくりこなけりゃ次にいけ

音楽ってのは感じるものだ。もしある時点で気に入っていた曲が、(途中で)新鮮味のないものになってしまったらどうするか。(その曲を飛ばして)先に進むんだ。その月並みなアイデアを第一に完成させなきゃなんて考える必要は無いのさ。
くわえて、それによってそのアイデアは生かされず永遠に失われてしまう、なんてこともまたない。新曲を蹴り出すために昔作ったメロディや歌詞を思い起こす、そんなこと数えきれない位あるからね。

1曲を仕上げるために、その途中でいくつもの没案が累々と横たわっているというのは、良くある制作光景です。

個人的に思うのが、ここで Chainsmokers が言うようにそのような没データは廃棄すべきものでは無く、十分将来に生かせる資産になりうるということ。

というのも部分にフォーカスを当てれば光るアイデアは随所に残されており、旋律やコードのアイデアであれ、各パートのサウンドレイヤーであれ、インスピレーションの呼び水となることが十分に期待できるからです。


面白いのは、数か月~数年経過して過去のプロジェクトを覗くと、当時の没案をあっさりと適正にミックス処理できたり、アレンジ上の不足要素を瞬時に見抜けたりすることがままある点です。

当時よりも今の方がスキルが充実しているということ、インスピレーションの有無にかかわらずこれもポジティブな結論でしょう。正しい努力を積み重ねてきたことが証明されたわけですから。

④ インスピレーション不足には新しい楽器を

ピアノやギターで何か演奏しても飽き飽きして新鮮味を感じられない、なんてことがあるだろう?そんな時はその楽器に燃え尽きてしまったのかもしれない。
新しい「おもちゃ」を見つけるんだ。いつもジョークを言ってるのさ、どんなふうに僕らが(あの)ヒット曲を即座に作り上げたかってね。新しい楽器を購入してすぐにね。新しいサウンドは君のクリエイティビティと作曲プロセスを新しい場所へと導いてくれる。

新しい機材から新しいインスピレーションが湧く、というのは楽曲制作者にはある程度理解できる話。今はどちらかといえば楽器よりもプラグインが相当するでしょう。

ただしそれは、今所有している機材にきちんと向かい合い、がっつりと使い倒しているというのが前提になります。もしプリセットでお茶を濁して表面的にしか使っていない場合、新しいプラグインを導入してもそれらの真価を引き出すのは容易ではありません。

例えばソフトシンセは根幹となる概念や機能に相通ずる部分がある一方、出音やパラメータのレスポンスはかなり個体差があります。

この「共通部分」「ことなる部分」は特定のプラグインを使い倒すことによって皮膚感覚で深く体感でき、それにより他の同類機材の特徴を浮き彫りにすることが出来るわけです。

急がば回れではありませんが、速やかなスキルアップを目指すならじっくり機材と向かい合うのが、実はもっとも確実なる道筋と言えるのではないでしょうか。

⑤ ドラムスこそすべて(でもコードも大切)

うん、本当にそう。ドラムスこそすべてだ。特に「less is more」ルールに従っているならね。ドラムスには時間をかける価値があると言える。これはサンプルパックを使うなって意味じゃなくて、パックの音を使ったとしても独自のサウンドに加工せよって意味だ。
そしてクリエイティビティを発揮し、型破りな音からドラムサウンドを作るんだ。シガーロスの Jonsi とのスタジオワークの際、彼は自分の声とディストーションでできたドラムキットでプレイしていたんだよ。僕らはそんな感じのモノにいつもインスパイアされているんだ。
もう一つ、コード進行についてもよく吟味するんだ。それだけで十分情感を喚起するなら、ソングライティングのプロセスでそれ以上レイヤーを重ねたりする必要はない。

個人的にはシンセを数多くレイヤーしてアレンジを組み立てても、まだ何かが欠けていると感じる場合、十中八九ドラムス・パーカッション要素の不足であると考えています。

特に4つ打ちキックとシンセだけで構成されるハウス系 EDM 曲によくある制作シチュエーション。

こんな時、いったんシンセエディットは止めてドラムスの充実を図るのが得策でしょう。特にスネアとハットの状態でミックスの奥行きと楽曲のスピード感がかなり変わってきます。オーディオエディット・ダイナミクス調整・レイヤーを工夫して、タイトなグルーブを目指しましょう。

その上で Chainsmokers が語るような、独自の型破りなサウンドにトライできると尚良しです。また、下の機材紹介で触れているようにキックにはこだわりましょう。曲のバランスと完成度が劇的に変わってきます。

the chainsmokers 5つのお気に入り機材紹介

Ableton Live 10

正直に言うよ。音楽を始めた初期の頃、あまりお金が無いのと、DJとプロデュースの2つの用途に使うためという理由で Ableton Live を選んだ。素晴らしいソフトだよ、キャパと操作性がどんどん向上していくからね。間違いなく全てのDAWのなかでもっとも金を払う価値があると言える。

複数のサウンドネタからループを構成する、コラージュ的な作業に強みがあるDAW。「Rose」では様々な素材を試して各ループを構築し全体アレンジを仕上げたと彼らが直接話していたのが印象的。納得の活用方法です。

ReFX Nexus 3

(シンセ機能が無い)プリセットサウンドばかりだって見下す人がいるけど、だからなんだってんだい?君は一体何がやりたいんだ?毎日最新プラグインをいじくり倒すくらいだったら、いくつかサウンドを選び出して実際に曲を書くんだ。

Nexus のサウンドは加工の余地が無いと言われますが、個人的にはまったくそう感じてはいません。空間系エフェクトが強くレイヤーが過剰なことが多いですが、うまくこれらの要素を削ぎ落してフィルターエンベロープで絞れば、かなり引き締まったタイトなサウンドになります。

Lennar Digital Sylenth1

このプラグインはかなり長いこと使われてきたから、皆に飽きられてしまっているね。(でも)それは皆、自分独自の音を作るのに時間をかけてないからじゃないかな。実験するんだ。ありきたりの手法を手放すんだよ。そしたら素晴らしいサウンドを生んでくれる。
「Selfie」のベースラインは Sylenth1 の音から来ているんだ。コレのおかげで僕はこれからもずっとハッピーさ。

Serum などの新興ソフトシンセが台頭しても未だ命脈を保っているロングセラー。個人的には引退してしまった Hardwell のサウンドというイメージが強いです。若干陳腐化しているサウンドではありますが、今でも十分使い得る余地はあるでしょう。

Reveal Sound Spire

このソフトシンセはかなり長いこと僕のお気に入りだ。何よりも使いやすいし笑顔になれるようなサウンドを見つけることが出来る。新しく導入した機材 Moog sub fatty が僕らの関心を惹くのに(Spireと)張り合っているけど、Spire にはまだたっぷり寿命が残ってるからね(Moog は後回し)。

「EDMに使えるソフトシンセは?」と問われたら、Serum、Nexusの次にこの Spire を挙げます。優れた点は一から作ってもプリセットを使っても典型的EDMサウンドが容易に作れる点、悪い点はそれしか取り柄がない点でしょうか。

Sonic Academy Kick

僕は常にドラムスから作り始めるわけじゃないけど、ドラムスはどうでもいいってことではない。
ラジオで流されるにしても、5万人のオーディエンスを擁するフェスでプレイされるにしても、なんにせよ楽曲のキックをチューニングして作り上げるのは芸術的価値がある工程と言える。それによって当て推量に基づいた作業をしなくても済むんだ。

ドラムスの中で最も重要なサウンドは何かと問われたら第一にキック、その次はスネアでしょうか。キックひとつで楽曲の落ち着きやミックスバランスは大きく変化します。なので「後で差し替えるから今は適当なのでいいや」と微妙なサウンドで妥協してはいけません。

なぜなら安易に適当なキックで作業を蹴り出してしまうと、その上に組み立てるベースやバッキングなどのダイナミクスやEQ調整が果たして適切かどうかの判断が出来ず、まさに「当て推量に基づいた作業」となってしまう危険性があるからです。

仮に後でもっと良いものと差し替えることになったとしても、現時点でのベストなキックをスタンバイさせる習慣は欠かさないようにしましょう。

まとめ

彼らが語っていた内容をまとめると以下のとおり。


  • 吟味された少数精鋭のトラックだけに留めよ
  • インスピレーションは偶然生まれるモノ、捕まえるモノ
  • ドラムスは時間をかける価値がある

インスピレーションやドラムスなどさまざまな事がらについて議論していますが、もっとも大切な内容を一つピックアップするなら、それは間違いなく「Less is more」です。

EDMのみならず海外ポップス一般はこの概念の強い影響下にあるためか、J-Pop と比べてパート数、エディットの凝り具合、コードのバリエーション等が抑えめで至ってシンプルな構成。

とはいえ「単純」「簡単」なものではけっして無く、吟味された少数のサウンドをもっとも効果的なポイントでのみ聴かせるという点で、こちらの方が難易度が高いのではないかというのが私の実感です。

インスピレーションを形にするにしても、シンセ主体のアレンジ、ボーカル主体のアレンジをするにしても、「Less is more」はすべてのノウハウの根幹となるもの。

それを踏まえて the chainsmokers の5つのこだわりを参考にして頂けたらと思います。


※ この記事は、Musicradar 2016年11月「The Chainsmokers: 5 things we’ve learned about music production」を元に作成しました。

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