スタジオモニターにサブウーファーは必要か?実体験を交えて解説します【Genelec7070A/Focal cms sub】

  • 2020年9月15日
  • 2020年9月21日
  • 機材

冒頭に結論ですが、クラブミュージック・ダンスミュージックのような、クラブでのDJプレイが想定される楽曲を作っているなら、一度はサブウーファー付きのモニタリング環境でチェックされることをおススメします。

私自身はサブ有のスタジオ環境に入って10年以上、個人制作環境にサブを入れて8年以上とそこそこ長期にわたってサブウーファーを活用してきました。

ここではサブウーファーの技術的な側面に深く立ち入ることはせず、楽曲制作者としての視点からサブを導入したいきさつ、導入して感じたこと、その他サブウーファーに関連するトピックスについてご説明いたします。

この記事は


  • モニターにサブを入れるメリットを知らない方
  • 本格的なクラブミュージックを制作されている方
  • サブウーファー導入の実体験を知りたい方

におススメです。

導入することでどういった利点があるのか?そもそも導入する必要があるのか?などを考える際のヒントになるのではと思います。

サブウーファーとは

サブウーファーとは

サブウーファー(英語: Subwoofer)は概ね 100 Hz 以下の超低音域のみを担当して再生するスピーカーである。主たるスピーカーシステムとは別体である場合が多いが、一体となっている場合もある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%96%E3%82%A6%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC

モニタースピーカーのサイズと再生周波数帯域の下限はおおよそ比例関係にあります。そのためニアフィールドサイズのモニター単体で100Hz以下をクリアに再生させるのはきびしく、別途おおぶりなサイズのモニターでサポートする必要がでてきます。

それを担うのが低音域再生専用のサブウーファーです。

複数台あると干渉が多く低音域のキャンセリング(減衰・消失)が多発するということ、そもそも 100Hz以下の低音域は指向性が乏しく左右ペアを揃える意義に乏しいことなどから、通常ペアでは無く一台のみで運用されます。

シグナルの分岐について

サブウーファー有のモニタリング環境ではざっくりと


インターフェース ➡ サブウーファー ➡ メインモニター


というシグナルフローとなり、いったんサブに入力された信号が内部フィルター(クロスオーバー)でローとハイに分岐されます。そしてローをサブウーファーが、ハイをメインモニターが受け持つようにそれぞれ信号が送られ再生されるというしくみです。

受け持つ帯域をオーバーラップさせない意図もありますが、メインの低音域の再生をサブウーファーが肩代わりすることになり、その出力負担を軽減させ大音量再生時の出音の歪みをおさえる一助にもなっています。

Genelec7070A マニュアルの抜粋 / 85Hzを境に分岐するとある

LFEについて

本記事と関連性が薄いLFE(low frequency effect)についても触れておきます。

映画等のシネマサウンドでは5.1サラウンド等、音源そのものにサブウーファーで再生させるため専用のチャンネルがあり、それをLFEと言います。

これに対し劇伴系以外の楽曲制作であつかう音源は左右のステレオ2chが基本で、LFEのようなサブウーファー専用の低音チャンネルというものは想定していません

この場合サブ内部で前項のフィルターを通してロー成分のみを抽出し、モノラル信号として再生させることになります。

Focal cms sub の入出力 / 右端がLFE専用の入力端子
左側の4つの端子でステレオ2chの信号が入力され、分岐後メインにハイ成分が出力される

私のサブウーファー遍歴

Focal cms50 + cms sub のケース

私が個人でサブウーファーを使い始めたのは、メインのモニターを Focal cms50 に切り替えたときに cms sub も併せて導入したのがきっかけです。同一メーカー・同一ブランドということで相性は良く、あまり音場が大きくない cms50 もサブをオンにすると出音がかなり立体的になったのを記憶しています(今はこのコンビではない)。

導入してしばらくは楽しくて常にサブ有で作業をするわけですが、そのモニタリング環境だとサイン波とキックだけでも納得感ある低音域を構成できてしまうので、楽曲の屋台骨として重要な100Hz~400Hz周辺の調整がややおろそかになりがちというデメリットに後に気が付きます。

弊スタジオ壁際に鎮座する cms sub / フロントグリルは付けない

一般リスナーはふつうサブの有るリスニング環境では無いため、当然そういった環境でバランスよく聞こえる調整を優先すべきであるということですね。

なのでいつもの作業プロセスにポイントポイントでサブ有のチェックを挟む程度にして、通常作業は基本メインのみで行いサブはあくまでメインモニターの補助に徹するようにシフトして行きます。

ちなみにデメリットというかサブウーファーの不可避な特徴として、再生帯域の都合上、メインモニターの音のタチよりもほんのわずかに遅れて低音域のアタックを感じるというのがあります。慣れると気になりませんが、最初は「ん?」と違和感に感じるかもしれません。

Genelec1031A + cms sub のケース

のちにメインの cms50 のみ手放し、GENELEC1031A とのコンビで使うようになります。

メーカー違いで大丈夫かと感じますが意外とこの組み合わせは相性が良いんですね。事前に下記の Genelec1031A & 7070A の純正コンビのサウンドを知っていたため検討の上 1031A & cms sub でも十分機能すると判断し、この組み合わせで継続使用することに決めました(cms50 だけ退役)。

Genelec1031A + Genelec 7070A のケース

そもそも初めてのサブ有環境がこのコンビ(私物ではない)で、このセットアップの経験がクラブミュージック制作にサブはあったほうが良いと気づくきっかけになりました。

導入された当初はセッティングが甘く出音にピンと来ていませんでしたが、丁寧に位相と極性の調整をすると一気に改善されたのを覚えています。 

こちらは cms sub リアパネル / 主に Phase と Polarity で調整する

出音は「大きくパンチがある」の一言で、1031A は海外では Hiphop/R&B 系統のプロデュースで引き合いに出されることの多いモニターの為よりその出音に得心しました。

いわゆる808のサブベースが「ドゥーン」と体全体を揺らす感じ。耳で聴くというよりもバイブレーションそのもので鳥肌が立つ感覚。周辺家具もカタカタ共鳴します。

尚、7070A のキャビネットは小型冷蔵庫くらいのサイズで 50kg とひじょうに重たいです。

ブラック系統のプロデューサーは時折 1031A のクリップインジケーターが点灯する程の大音量、7070A がブリブリ歪む程の爆音でモニターするので、この位大ぶりのサブウーファーで無いと体感できないフィールがあるのだと思われます。耳に悪いので私はそのようなモニタリングはしませんが。

サブウーファーは汎用性ある機材?

これはあくまで私見ですが、サブウーファーはそこそこ汎用性のある機材ではないかと感じています。

もともとクロスオーバーで信号が分割されているからメインモニターの帯域とぶつかるわけでも無いし、メイン程複数機材で聞き分けたいと感じる帯域でも無いので、まっとうなサブウーファーが一つあればよほど微妙なモニターでない限りどんな組み合わせでもある程度機能するのではというのが私の見解です。

とはいえこのトピックスについて詳しく検証している記事等を目にしたことは無いので、あくまで一個人の私見にすぎないとお考え下さい。今度 Yamaha NS-10m & cms sub でもチェックしてみようと思います。


➡ 参考リンク Genelec 7070A Manual
➡ 参考リンク Focal cms sub Manual

サブウーファーでモニターする意義

クラブミュージック制作にあたってサブウーファーをモニタリングに導入する意義についてご説明します。

キック調整の精度向上

サブウーファー導入の利点としてサブベース・サブキックの精密な調整に効果が期待できるわけですが、大きいと感じるのがキックの「本来の姿」が確認できる点です。

通常のモニターでは「ドッ」としか聞こえないキックも、サブウーファーをオンにしてチェックすると「ドゥウウン」「ドォウッ」「ドボッ」など多彩な水面下のリリース状態が姿を現します。またキックのキーと楽曲キーとの一致・不一致もかなりハッキリ聞き取れます。

制作開始当初は納得感のあったキックも、のちにサブ有でモニタリングするとあまりイケてない音だったりして、そこで慌てて調整 or 差し替えを迫られるということは珍しくありません。 

クラブミュージックはキックの状態よって楽曲の完成度が大きく左右されるため、その調整の精度が向上するのは大きなメリットです。

クラブのサウンドシステム対応

サブウーファー付きのサウンドシステムを常設しているクラブ等でプレイされることを想定した場合、楽曲をサブ有でモニタリングして仕上げることの意義は大きいといえます。

クラブやクラブイベントのサウンドシステムでは、PA用パワーアンプ総出力の7~8割が低音域に振り分けられると言います。(エビデンス無く恐縮ですが関係者より直接聞いた話)

クロスオーバーの状態にもよりますが、ウーファーをオフにすると基本上物がツイーターからシャリシャリ鳴っているだけです。言い換えればそれ以外をすべてサブウーファーが担っている訳です。

そこまでの大出力を担うサブ領域の調整が中途半端というのは、そこそこリスクが高いと考えています。

屋外クラブイベントのワンシーン / 大量のPA用サブウーファーがスタックされている

DJに曲をピックアップしてもらうため

言うまでもありませんが、クラブミュージックを作る目的はそれをクラブでプレイしてオーディエンスを躍らせること、あるいはDJに制作した曲をピックアップしてもらってクラブやイベントでプレイしてもらうことにあります。

特に大御所DJやプロデューサーがピックアップするかどうかは、キャリアのブレークスルーに直結するという意味で決して無視できません。

まったくサブに注意を払わずに作られた曲と、丁寧な調整を経たもののどちらが多くのDJにピックアップされるかは言うまでもないでしょう。

FutureMusic 2012年3月号より
Nicky Romero の当時のスタジオに Genelec 7070A が顔を覗かせる
Romero はブレイク時からサブコントロールで定評のあるEDMプロデューサーの一人

実際にあった話

以前仕事で出入りしていたクラブで、とあるメジャー系 J-Pop アーティストの方の4つ打ちハウス曲のライブを関係者として近くで聴く機会がありました。

サブウーファー完備のサウンドシステムにもかかわらずイントロから終わりまで納得感あるサブトーンは体感できず、「いつまでイントロなんだろうか?」と思わせるほどに薄い低音域にひじょうに当惑したのを覚えています。

別件のR&B系 J-Pop アーティストのライブでは適切なサブトーンが入っていたため、その対比からより悪いケースとして私の印象に残ってしまいました。

この体験より、いかなるカテゴリの楽曲であれクラブでのプレイが想定されるならサブの調整は無視すべきではないとの認識をより強く固めることになります。

その他のポイント

常時オンにしないほうが良い

既に言及していますが、サブウーファーがあると濃密なサブトーンに満足してしまい、通常の再生環境を想定した低音域調整を疎かにしてしまう危険性があります。常時サブ有に慣れてしまうと、いきなりサブ無しにした場合のギャップに戸惑い、通常の低音調整に支障が出るとすら感じます。

個人的には


  • 制作序盤
  • 途中なんどか
  • ラストの仕上げ

の様に最初と最後だけ重点的にサブ有でモニターし、それ以外は折に触れてチェックする程度で良いと感じています。ただサブ有で初めて聴くのが一番最後というのは少々リスクが高いかと思います。

ちなみにサブウーファーはフットスイッチでオンオフの切り替えが可能です。導入するなら合わせて購入し、足元で切り替えられるようにしておくと良いでしょう。

フットスイッチ Hosa FSC-501

サブ有無で印象が変わらないミックスが良いミックス

サブウーファー有で作業していて感じるのが、メインモニターだけでバランスがバッチリ取れている楽曲があるとして、サブをオンにしてもその印象は崩れず、ナチュラルにサブ領域だけが付加される、そういったミックスが良いミックスと感じます。

逆にサブの有り無しでミックスの印象が大きく変わるものは、メインモニターでのバランスに何か問題を抱えていることが経験上多そうです。

これはさまざまなリファレンス曲を聴いていても感じることです。

近隣への騒音対応

サブウーファー導入にあたって頭を悩ますのが近隣への騒音対応です。

結論から言えば、防音設備の無い集合住宅では、建物の体躯からバイブレーションが別室・別フロアに伝播するためNG。戸建て住宅であれば、近隣住宅と壁を接しておらずある程度距離が離れているのあれば可能性アリですが、それでも音量は絞り気味になってしまうでしょう。

次善の策として次のようなサブチェック方法がとられることが多いようです。良くあるのが2つめと3つめ。関係者であれば4つめもアリ。


  • サブウーファー設置のスタジオを借りる
  • DJとしてサブウーファーの有るクラブでかける
  • あるいは別のDJにかけてもらう
  • クラブ開店前・閉店後に流させてもらう

ちなみにウーファー実機は代理店によってはテスト機を借りて事前に試してみることも可能です。

まとめ

以上、サブウーファーに関する諸々ついてご説明いたしました。

ざっくりと内容を振り返ってまとめると以下のとおり。


  • クラブ・屋外イベント等ではサウンド出力の大半が低音域
  • ゆえにクラブミュージック作成時に最低一回はサブ有でチェックしたい
  • とはいえ常時サブ有でモニターする必要はない
  • サブウーファーが使えない場合クラブで流してチェックするのが現実的

個人的にはこの記事

『低周波がしっかりと再生されると、不思議と中音域だけでなく、高周波の信号まで明瞭に聴こえるようになる。』

https://www.userlist-eclipse-td.com/sightandsound/vol4.html

という表現にそこそこ共感してまして、単純に「メインの出力にサブがおまけでくっつく」のではなく、モニター環境全体がブラッシュアップされるというのが私のサブウーファーに対するイメージです(でも常時オンしない)。

サブが品質に直結しないジャンルの楽曲制作では不要ですが、もしクラブミュージックを作成されていて実際に流す予定であれば、ぜひサブウーファー有の環境でチェックしてみてください。

けっして損はしないことと思います。