Spectrasonics Stylus のループを高速でオーディオバウンスする方法

  • 2020年6月15日
  • 2021年12月18日
  • 制作

ドラムス・パーカッションのリズム系ループ素材でおなじみのプラグイン Spectrasonics Stylus。音がよくテンポ変動による音質劣化に強いツールですが、 実際の運用となるとそのもっさりした動作にやや作業効率が停滞する感があります。

この記事では原始的なやり方で、 Stylus のループ系ネタ投入時のオーディオバウンスを高速化し作業効率をアップさせる小技をご紹介いたします。


  • 無駄なひと手間を省き、余った時間で楽曲のブラッシュアップがしたい
  • アイデアに煮詰まったときのインスピレーションが欲しい
  • とにかく作業を高速化し、仕事をたくさん回したい

といった方におススメです。

この記事は Cubase を基にセッティング説明していますが、おそらく同様の設定が他の DAW でも可能かと思いますので、記事の概略をチェックされたのち、適宜ご使用のDAW環境でのセッティングをご検討ください。
ここでご紹介する手法は、マルチIOのインターフェースでのみ可能です。

要点

「バウンス」抜きで Stylus ループをオーディオ化する

この記事でお伝えしたいことは


Stylus のループをオーディオ化する際、DAWの機能でオーディオ書き出ししたりオーディオ差し替え(インプレイスレンダリング)するよりも、インターフェースの入力で戻してリアルタイム録音する方が圧倒的に早い

ということです。

Stylus でループをチェック中に一案として別トラックにオーディオをとりあえずキープしておきたい場合、細かいエディットをしたい場合など、そのつどDAW上でバウンスしてオーディオ化するのは作業テンポを著しく損ねます。

せっかくノっている制作意欲に水を差す冗長な仕様が残念なところ。

一方でこの手法を使うと、レコーディングのパンチインのごとく、ループチェックしつつ気に入ったネタを五月雨式にオーディオ録音していくため、いわゆるDAWバウンスを一切省略することができ、「ループチェック➡オーディオ化」の間の作業ギャップをギュッと圧縮することができます。

やり方

セッティング

まず、インターフェースの使用していない任意の出力と入力をケーブルで接続します。



次に(Cubase の)「スタジオ(左上メニュー)➡ オーディオコネクション」よりケーブルで結線した入出力を「バス追加」し、使用できる状態します。



Stylus をロードし、センドアウトに新規追加した出力をアサインします。(下画像)



さらに、ループ録音用トラックを追加し、入力を新規追加した入力バスをアサイン、かつ出力を「無し」にします。(下画像)


出力をアサインしてしまうと、stylus の再生音と音がかぶり不快なフェイジングが発生します。

Stylus のループを再生中、録音用トラックの「RECスタンバイ」で入力シグナルが確認できておれば準備完了です。


入力信号が小さい場合、センド量を増やして対応しましょう。

運用

では実際に使ってみます。
曲の任意の部分にロケーターをセット、録音用トラックのレーンをオンに。



あとは制作中の曲に合わせて Stylus のループネタを再生し、気に入ったものを見つけたら録音していくだけで OK。



自動的にレーンにスタックしてくれるので、チェックして気に入ったネタをどんどん録音していきましょう。余計なバウンスプロセス一切抜きなのでひじょうにストレスフリー。じっくりネタ選びに集中することが出来ます。



あっというまにナイスなネタを大量に調達できました。(上画像)



ネタ選びが完了したら録音スタンバイをオフにし、録音レーンをすべて選択したのち「右クリック➡レーンからトラックを作成」を選びます。



ネタが個別のオーディオトラックにコピーされるので、レーントラックを削除して完了です。あとは集めたオーディオ素材をご自由に料理して下さい!

オーディオネタ料理

Cubase ユーザー限定のオーディオ編集ハックの関連記事として

も併せてご活用頂ければ、オーディオ編集作業のさらなる高速化が期待できます。ループをあっと言う間にバラしたりオーディオのピッチ調整など、こういったシチュエーションにひじょうに有効ですので、ぜひご参照ください。

良い点・悪い点

良い点

エフェクト掛け録り可能

Stylus にインサーションエフェクトを挿して掛け録りも出来ます。

ハットやシェイカー等のハイエンドネタを探す際、フィルターでローをバッサリカットしておいたり、EDM系の曲であれば Kickstart 等のサイドチェイン効果を効かせたりするのも良いでしょう。

あるいは以下のようなトランスゲート系プラグインでキック頭だけオフ、スネア部分(2・4拍)だけオンなど、必要な部分だけ手軽に抜粋 or ミュート出来るので複数の要素がミックスされたステム系素材に有効です。私は特定のパートだけを抽出して大量に集める場合などでこのやり方を良く使います。

SPC Gater(フリー): ダウンロード先

またこのプラグインはランダマイズもできるので、面白いインスピレーションを探す際にもうってつけです。

音程アリ素材は Stylus でキー補正可能

リズム系素材以外のギターやボーカルなどの音程のあるループ素材では、Stylus で制作中の楽曲キーに合わせて補正すると音質を損ねずにキーをマッチさせることが出来おススメです。

Stylus 以外でも応用可能

Stylus 以外のプラグインでも同じ発想を応用可能です。他のリズムループ系プラグイン、シンセのアルペジオ・シーケンス・パッド・リフなど、ループ系のアイデアを短時間で大量に調達したい場合などで威力を発揮します。   

悪い点

長いループネタには効果が薄い

既にお気づきかと思いますが、8-16小節の長めのループ尺になると、録音自体時間を取られるので高速化のメリットがほぼなくなってしまいます。この手法は「1-4小節」の短尺向けループ素材限定といえるでしょう。

レイテンシーに注意

一度コンピューター外部にシグナルを出して戻すので、その過程で数サンプル数ミリ秒のわずかなレイテンシーが発生します。

オーガニックなループであれば気になりませんが、タイトなタイミングのネタであれば、キックのアタックのズレなどは見逃せない要素となります。その場合オーディオをマニュアルでずらして補正する必要があります。

Stylus でmidi加工等をしたい人には効果が薄い

Stylus プラグイン内部でサウンドを作り込む、あるいはチャンネルを複数使ってサウンドをスタックしていく場合。またエクスポートしたMidi を細かく組み替えていく手法を取る場合などは、このやり方にこだわる意義は薄いといえるでしょう。

関連記事

本記事に関連する内容の記事です。

まとめ

一見デジタル化のプロセスに逆行するようなローテク手法ですが、正味の作業プロセスの簡略化としては一定の説得力があります。

DAW 画面上のハック機能以外にも、視点を切り替えればさまざまな作業高速化のヒントがあるという一例といえるでしょう。仮にここでご紹介した内容が有効でなかったとしても、「こういう着眼点もあるのか」という例として参考にして頂けたらと思います。 

ぜひご活用ください。