【音楽・機材】soundtoys Decapitator についてくわしく解説します

  • 2020年3月16日
  • 2020年5月29日
  • 機材

Soundtoys Decapitator はシンプルなインターフェースのサチュレーションプラグインですが、その実、本機がモデルとしたヴィンテージのアナログハードウェアは全部で5種類あり、すべてを「スタイル」として切り替えて使い分けることができるという、とても贅沢な仕様になっています。

コアになるサチュレーション回路は当然として、周辺のフィルターやトーンコントロールまでもが、ヴィンテージ機材の設計思想を忠実に受け継いだもので、一貫してアナログクオリティを追求する soundtoys の、並々ならぬこだわりを感じます。

この記事では

  • Decapitator のスタイルについて
  • Decapitator の主要機能
  • 実際の使用感と活用方法

の順に本機について詳しく解説していきます。

スタイルについて

Style

Decapitator の最大の特徴である 、エミュレートするアナログハードウェアを切り替えるボタンです。スタイル は5種類あり、後述する「Drive」「Punish」のレスポンスにそれぞれ個体差があります。それぞれ以下のような特徴があります。

A:Ampex 350 tape drive preamp

そもそもテープレコーダーであった Ampex 350のプリアンプ部分のみをエミュレートしたスタイルで、その効果はとてもスムースなチューブディストーションと形容されます。

E:Chandler®/EMI® TG® Channel

ロンドン、アビーロードスタジオのヴィンテージミキシングコンソールの回路をもとに設計されたチャンネルストリップのプリアンプをエミュレートしたスタイルで、特徴はリッチなローとスムースで空気感に満ちたトップエンドにあります。

N:Neve® 1057 input channel

一般的な1073よりもユニークな特徴のある初期のNeve 1057をエミュレートしたスタイルで、 特にギターに効果を発揮します。重量感とエッジが共存した低音、焦点のはっきりしたミッドレンジに特徴があります。

T:Thermionic Culture® Culture Vulture® triode

初めて世に出たサチュレーション用ハードウェア「Culture Vulture」をエミュレートしたスタイルで、どんなソースに対しても適度な温かみと汚れを付加することができます。偶数倍音を付加するトライオード真空管を特徴としており、 特にドラムやパーカッシブなサウンドに温かみとパンチを付加するのに有効です。

P:Thermionic Culture® Culture Vulture® pentode

こちらは上記の「T」スタイルのペントード回路をエミュレートしており、奇数倍音を主に付加するサチュレーションです。ギターや各種のアンプに活用されます。

Decapitatorの主要機能

Output

アウトプットのつまみ自体は、通常のよくある出力調整用つまみですが、右隣の「Auto」をオンにすると、過度な出力を防ぐため、後述する「Drive」の増減におうじて自動的につまみが連動して動くようになります。ただ、スタイルの変更に応じてアウトプットの位置も自動的に変更されてしまうということは留意ください。

なお、Decapitator はインプットゲインが存在せず、「Drive」がその役割を担っています。  

メインフロー

Decapitator のメインフローは

  • ① Low Cut / Tone
  • ② Drive / Punish(+20dB)
  • ③ High Cut
  • ④ Output / Mix

で、②のサチュレート回路を軸に、前段・後段にそれぞれトーンコントロール用フィルターがおかれており、不要なローをカットしてトーンを整えたうえでサチュレートさせ、そこから発生するノイズをハイカットする、という仕様です。

フィルター・トーンコントロール関係は単に倍音を調整するだけでなく、ほのかにアナログ感をかもしだす独自の風合いが感じられます。

また「Drive」は、薄くかけてソースに倍音を付加するカラーリング用途はもちろん、フル近くまで突いたり、「Punish」でかなり歪ませても原音の特徴を損なわない絶妙なバランスの歪みにとどめてあります。歪みにくわえてアナログハードウェアの「空気感 / 飽和感」も追加されるので、こころもち音が「大きく」感じられるようになるのもうれしい効果です。

Low Cut 左の「thump」をオンにするとカットする周波数が数 dB 強調され、レゾナンス効果がえられます。

High Cut 用のローパスフィルターは通常 6dB/oct ですが「Steep」をオンにすると30dB/oct になります。

Attitude Meter

中央に鎮座するVUメーターは Ampex 35X シリーズでも使われているシンプソンの VUメーターを模したものです。アウトプットの音量ではなく、 Drive の程度に応じてのみメーターが反応する仕様になっています。

実際の使用感と活用方法

サウンドのサンプルは音量にご注意ください。
サンプルは4小節のフレーズで、効果を比較するために後半だけにDecapitator をかけているため、後半音が大きくなります。

基本どんなソースでもOK

結論をいえば、Decapitator はベース・ドラムス・ボーカル・ギター問わずどのようなソースにでも有効です。

シンプルで簡単に使えるのでいろんなトラックにかけたくなりますが、多用しすぎると同じような風合いの音ばかりになってしまうのと、Decapitator は若干CPU負荷が高めのプラグインなので、パンチを出したいトラックのみに限定して使うのがいいかもしれません。それか下記にある「パラレル」の手法で強調したいトラックだけ、必要に応じて少しづつ混ぜて使いましょう。

低音部に心地よい倍音

bass

低音域を中心とするパートに Decapitator でドライブすると、こもりがちだった原音に艶とハリがもどり、イキイキした躍動感を帯びてきます。

一応気を付けるべきは、Decapitator は簡単に音がドライブできてしまうので、意識しないとなんでもオーバーに突っ込みがちな点でしょうか。

(Style A / Drive +6.5 dB)

(Style A / Punish / Drive +6.5 dB)

Bright でヌケをだす

amp

Tone は通常センターで ±0 の位置にありますが、存在感を出したいパートには「Bright」におおきく振ることで EQ で持ち上げるのとは異なった、ナチュラルな音のヌケを得ることができます。ただその分ローが若干軽くなるので、必要に応じて補正が必要です。お試しください。 

パラレルでPunish

センドエフェクトに Decapitator スタンバイさせ、パラレルとしてを原音にミックスするのも有効な使い方でしょう。Punish をオンにして Drive を70%以上突いておおきく歪ませ、MIXを100%にしておきます。そうして原音に対してゼロから少しずつミックスし、若干原音が押し出される感触が出てくればOKです。

注意点は、ミックスしたトラックの音量自体が大きく、浮き立ちすぎる場合がある点で、その場合トラックの音量を再度全体ミックスとバランスを取り直すことをおすすめします。 

なお、この手法はどのようなパートでも応用可能ですが、リードボーカルやベース・ドラムスの原音に自然な歪みを加えたりするのに有効です。センドに一つ待機させておくと必要な時にすぐに使えて便利ですよ。

パラレルはハイレシオでソースを大きくつぶし、それを原音にミックスしてパンチをだす「パラレルコンプ」という手法がとてもよく活用されます。その他歪み系のエフェクトでもよく使われます。

まとめ

Decapitator の使い方は一つではありません。ただ、せっかく5つものエミュレーションスタイルが搭載されているなら、その微妙なフィーリングの違いを感じつつ、シチュエーションに応じて臨機応変に使い分けられたらと思います。

本文でも繰り返し述べていますが、ぜひ様々なソースに本機を試し、5つのスタイルのレスポンスがどのような違いを生むのか体感してみてください。きっとメリハリあるミックスのためのヒントが得られるでしょう。