【音楽・機材】soundtoys crystallizer の使い方についてくわしく解説します

  • 2020年3月13日
  • 2020年6月5日
  • 機材

今回取り上げる「soundtoys crystallizer」は、ひとことでいえばピッチシフト搭載のエコーマシンということになりますが、実際はその言葉にとどまらないほどの「型破り」あるいは「なんでもあり」な仕上がりのプラグインエフェクトです。

世界的な名機「Eventide H-3000」をバックボーンにした本機は、それがとりとめがないように感じるサウンドであっても、実際はとても単純な一貫性のあるコンセプトに基づいて設計されています。

この記事では

  • crystallizer の開発のコンセプト
  • crystallizer の主要機能
  • crystallizer の活用方法

という流れで、本機のエッセンスをご説明していきます。

crystallizer の開発コンセプト

ハーモナイザー 「Eventide H-3000」がモデル

Soundtoys の開発ブレーンはその昔 Eventide のスタッフとして、リバースシフトというアルゴリズムを積んだ世界的にも有名なハーモナイザー「H-3000」 の開発にかかわっており、そのうちの一人が開発中のアルゴリズムにフィードバックとディレイ効果を加えようと思いつきました。

その結果うまれた、きらめくクリスタルのようなエコーはとくにギターに効果を発揮し、 H-3000 のプリセット「Crystal Echo」として、その後数えきれないほどのアルバム制作に活用されることとなります。

その開発に携わった本人みずからが、今の技術で当時のH-3000のクリスタルエコーをブラッシュアップし、よみがえらせたプラグインエフェクトがこの crystallizer です。

crystallizer の主要機能

入出力・mix

MIXつまみは、どの位置でもドライとウェットのミックスが一定の音量バランスになるように調整されています。

そしてインプットとアウトプットノブは、ウェットシグナルにのみ影響します。ドライシグナルの音量は一定で、ウェットのみ増減するという仕様ですね。

インサーションで使う場合、上記の MIX バランスをいったんセットしたあとは、アウトプットでウェット量を増減させると、センド(あるいはパラレル)のような感覚で調整することが可能です。

メインフロー

crystallizerのメインフローは

  • ① Pitchshift (最大3oct)
  • ② Splice (オーディオスライス)
  • ③ Delay(スライス間無音挿入)
  • ④ Recycle(フィードバック量調整)

①~④を「Recylce」の分量に応じて繰り替えす仕様になっています。

こだわった調整をしない場合は「Midi Sync」をオンにし、「Splice」と「Delay」をディレイタイムのような感覚で 1/16 ~ 1/2 の間で調整するとやりやすいでしょう。 厳密には 「Splice」は「1スライス + 1スライス分の間隔」がワンセットになっていて、「Delay」を増やすとその分だけ間隔が長くなります。

「Pitchshift」 でコーラス効果が欲しい場合は 10 cents 以内のデチューンに、「Crystal Echo」効果を出すならオクターブ(1200 / 2400 cents)を中心に試してみるのがいいでしょう。

極端にオクターブを上下させてみても、適当な数値にしてみても、何らかの面白いピッチエコーが得られるので、ボーカル・ドラムス・パッド・SEなど、何にたいしてもかけてみたくなる、遊べる余地のおおいパラメーターといえます。

「Pitchshift」のサウンドは「ハイファイ感をそこなわない温かみのあるレトロな音」という絶妙なバランスの音質です。

Tweak

「Tweak」トレイのなかで重要なのは左の「Pitch」「Splice」「Delay」各オフセットで、メイン画面のパラメーターにここで補正を加えることができます。単位は「Pitch」オフセットが 「cents」 で他は「%」です。効果は

  • Pitch : 左チャンネルはプラス・右チャンネルはマイナス補正
  • Splice :右チャンネルのみ%分スライスの短尺補正
  • Delay:右チャンネルのみ%分ディレイの短尺補正

のようになっており、オフセットするにつれステレオ効果が高まるようになっていて、深く考えずにエディットしても、なにかしらの面白い広がりを表現できます。リズム感が変にならないようご注意ください。

Gate / Duck

Crystallizer には、あまり目立ちませんが、入力信号をトリガーとする「Gate / Duck」機能が付いています。

これにより「原音がなっている間はエコー成分を抑える」「原音がなっている間だけエコー成分をならす」というサイドチェーン風の効果をくわえることができます。「Threshold」「Attack」「Release」もあわせて調節しましょう。

crystallizer の活用方法

サウンドのサンプルは音量にご注意ください。
サンプルは4小節のフレーズで、効果を比較するために後半だけにcrystallizer をかけています。

エディットのコツ

crystallizer のエディットは、基本的に赤枠で囲ってあるパラメーターを中心にさわりつつ、必要に応じて他を微調整する、というスタンスでOKです。

  • ピッチエコー効果のエディットは上段
  • ステレオ感の調整は下段

という使い分けになるでしょう。意外に「Delay」がエコーの伸びと広さに関して影響がおおきいです。

もし動きが欲しければ、オートメーションも試してみましょう。少しトリッキーですが「Pitch ofs」を変化させると、左右同時に『逆方向』にピッチが変化し、それにともないステレオフィールドが心地よく変化し、非常におもしろい音響効果を得ることができます。お試しあれ。

プリセットに関して

crystallizer は非常に多くの個性豊かなプリセットがありますが、ランダムにつぎつぎ試していくと収拾がつかなくなることがあります。

ある程度どういった効果が欲しいのか念頭においたうえでプリセットをあたり、イメージに近いものをエディットしていくのが効率的といえるでしょう。

ディレイとしての使い方

crystallizer を単純なディレイとして使っても、クリアな効果を得ることができます。「Splice」「Delay」とそのオフセットを中心にエディットし、「Pitch」関係はわずかに調節する程度でOKです。心地よいステレオ感を演出しましょう。

またソースにもよりますが「High Cut」をすこし「Low Cut」を半分以上にセットすると、原音と直にバッティングせず、きれいなディレイ効果が得られることが多いです。

なお、オフセット値をすべて最小にすれば、モノディレイとしての効果も得られます。

コーラス・ダブラーとしての使い方

「Splice」は100~200ms 程度、「Delay」と「Recycle」はほぼ最小値で固定しておき、各オフセット値を微調整して、コーラス・ダブリング感をコントロールするといいでしょう。

「Detune & Double」カテゴリのプリセットがこれに相当しますが、「Dubbler」「Great Doubler」がナチュラルに音を広げてくれるのでおすすめです。センドで使うのも有効です。

ピッチエコーとしての使い方

基本的に和音パートでもモノフォニックのパートでも問題なく crystallizer のピッチエコー効果が活用できます。バッキングに使う際は、他のパートとの兼ね合いでピッチシフト度合いとウェット量を微調整しましょう。

リードパートであれば「Midi sync」をオフにして、気持ちのいいグルーブを感じる秒数に調整するとより自然な結果が得られるでしょう。

プリセット「Pitch up」カテゴリの「2octa high」

プリセット「Pitch down」カテゴリの「2oct down」

ランダマイザ―としての使い方

なんでもいいからリズムのインスピレーションが欲しいとき、ためしに適当なドラムスやパーカッションのサンプルを crystallizer の MIX 50~100% でオーディオバウンスしてみると、予想だにしない面白い結果がえられるかもしれません。

ポイントは、いろんな種類のリズムサンプルに、自分がいいと思ったプリセットをなんでも深く考えずにどんどん試してみることです。

ボーカルチョップ系のサンプルにもおすすめです。

Cubase であればオフラインバウンスでまとめて一度に crystallizer で処理するのが効率的です。

まとめ

以上、crystallizer についてみてきましたが、思ったより複雑な動作をするエフェクトというのが率直な印象です。

基本構造を理解したあとは、マニュアルにも書いてあるとおり、実際にプリセットをいろんなソースに試してチェックし、どんどんエディットして直感的になれてしまうのがてっとり早いといえます。

ピッチエコー・ディレイ・ダブラーのような標準的な用途から、なにか面白いアイデアを期待してしまう、飛び道具的な使い方まで、皆さんならどんな使い方をされるでしょうか?