GENELECは、楽曲制作者なら知らない人がいないという位メジャーなモニタースピーカーの製造メーカーです。
今回ご紹介するGENELEC 1031Aは、そのランナップの中でも特に有名なものの1つで、 90年代に幅広いユーザー・スタジオ・放送局に受け入れられ、世界標準のモニターに上り詰めました。
今でもYamaha NS-10Mとのコンビで設置してあるスタジオも多いと思います。現在は既に製造がされておらず、その設計ノウハウ等は卵形の8050シリーズに引き継がれています。
※ この記事は約7分で読むことが出来ます。
参考:スタジオモニターにサブウーファーは必要か?実体験を交えて解説します【Genelec7070A/Focal cms sub】
GENELEC1031Aの概要
GENELEC社について
GENELEC(ジェネレック)は、フィンランド、東スオミ州、北サヴォ県のイーサルミ(Iisalmi)に本社を持ち、1978年に設立された音響メーカー。
https://ja.wikipedia.org/wiki/GENELEC
プロフェッショナル・モニタリング・システムまたはホーム・シアター向けのカスタム・インストール・システムなどを設計及び生産している。
1031Aについて
The Genelec 1031A is a two-way active monitor system, consisting of a vented enclosure with a multiple amplifier unit set into the back. The amplifier unit contains a low signal level active crossover, two power amplifiers and overload protection for each driver. This design provides high output, low coloration and broad bandwidth.The system’s excellent dispersion and precise imaging together with its compact size make it ideal for near field monitoring, broadcast and TV control rooms, mobile vans, home studios and travelling engineers.
「GENELEC 1031Aは、背面に2基のアンプユニットを備えた、バスレフ型エンクロージャーからなる、2wayアクティブモニターシステムです。アンプユニットは低信号のアクティブクロスオーバー、2基のアンプ、そして2基のドライバに対するピークオーバー保護装置より構成されています。これにより高出力及びフラットな特性及び広範囲の周波数バンド幅を実現することが可能となりました。コンパクトなサイズに、素晴らしい音の広がりと正確な再現性が一体となったこのシステムは、ニアフィールドのモニタリング用途、放送局及びテレビ局のコントロールルーム用途、ホームスタジオ用途等にとって、理想的なシステムと言えるでしょう。」
https://www.genelec.com/support-technology/previous-models/1031a-studio-monitor 参照
受賞歴
- Best Gear of the 90’s” by Pro Audio Review
- Musik Messe International Press Award (MIPA) 2000
- Musik Messe International Press Award (MIPA) 2001
- Professional’s Choice Award 1995 – Producer Version
- TECnology Hall of Fame 2014
GENELEC1031Aを使っていて感じたこと
ここでは、実際に私が1031Aを使用していて感じたことを記載します。
出音に関して
音場が広く大きいがハイがきつめ
1031Aの出音ですが、他の小型のニアフィールドと比べて、明らかに出音から感じるスペースが広く感じられます。音場が広くいわゆる解像度の高い、ディティールまで正確に聴き取れるというのが私の印象です。定位感もはっきりしています。特に、リバーブのウェット量が正確に把握できるなと感じました。
とはいえ初期状態で若干ハイがきつすぎて疲れやすく感じたので、treble tiltを-2dBした状態で運用しています。
良くも悪くも”良い音”
出音が良いというのは、慣れない内は、調整不足でバランスがおかしいミックスでも、良い音に聞こえてしまう可能性があるということです。
一旦1031Aのいわゆる”正解”の音の鳴り方を理解してなじんでしまえば特に問題ない訳ですが、それまではいちいち良く聞こえてしまうことに戸惑いがあるかもしれません。 確かに音が良すぎるスピーカーはミックスに向かない、という評価もちらほらあり、そういう意味で注意を要するモニターと言えるかもしれません。
音量が大きい
リスニング位置(モニターから約1.1m)で聞いている平均の音量が85~95dB位で、自然とこの範囲内でモニターすることが多いです。この音量だと、防音処置のされていない環境で通常に運用するのは厳しいかも知れません。またこれ以下の音量だと持てる性能をフルに発揮できないので、宝の持ち腐れになる可能性があります。
生産されていない
1031Aは1991~2005年まで製造されており、今では既に生産を終了しています。よって1031Aを入手するには中古市場を当たるしかない訳ですが、およそ15~25万円前後で取引されている模様で、これはここ十年で大きく変動していないと感じます。
製造時期で差異がある?
1031Aは製造時期によって外形と音に微妙な差異があるようです。私は自分で所有する1031Aの音に満足していますが、以前出入りしていたスタジオの1031Aは、どうもパノラマが狭めで音に詰まった感じがあり、最後まで馴染めなかったのを記憶しています。既に外形自体も同一では無かったので、個体差というよりも製造時期が根本的に違っていたのだろうと今では思います。
シリアルで製造時期を確認
GENELECのフォーラムで、製造時期のやり取りの投稿を見つけました。1031Aの背面にあるシリアル#で、GENELEC 本社 の サービスセンターのメアド(service@genelec.com) に 直接 問い合わせれば製造時期を教えてくれるようです。ちなみに私の1031Aは、1995年5月15日製造とのことでした。問い合わせてから2日程度で返信が来ました。
あと生産完了品の問題の一つが、故障の際に修理対応が難しい可能性があることです。下の章に私の1031Aで実際にあったトラブルを記載していますが、いずれも経年からくるものだと推察しています。そういう意味では 製造が新しい時期の1031Aを入手される方が無難かもしれません。
縦置きがデフォ
モニタースピーカーは、ロゴの向きが上になるように置くのが一応基本です。なので1031Aは縦置きということになりますが、中には横置きで使用されている方もいるようです。横置きにすることで定位感が変わってきますが、このあたりは個々人の好みによるでしょう。ただ縦置き使用を想定して設計されているので、特別な事情が無ければ1031Aは縦置きが無難と言えるでしょう。
古参のオーナーが多い
90年代に一世を風靡したモニターということで、愛好家は40代以上に多く、20~30代の楽曲制作者でこれをメインに使っているという方は、珍しいのではないかと思います。ただ、海外のプロデューサー・音楽関係の方は、幅広い世代で1031Aの音に馴染んでいる傾向にあるとも感じます。またどちらかといえば、ヒップホップ・R&Bのブラック系統にユーザーが多いような気がします。
海外ユーザーの評価
海外の掲示板・評価サイトから幾つか評価をピックアップしてきました。
I’ve heard the 8040’s and 8050’s and they both seem too flattering for my own taste. I know a lot of people that swear by them, but also swear at them when their mixes come off dull and missing things. If the two were my choices I would lean towards the 1031’s.
「8040と8050をチェックしたことがありますが、いずれも自分の好みに対して派手すぎるようでした。多くの人がそのモニターに絶対の信頼をおいているというのは、私も知っていますが、それと同時に、さえないミックスに腹立てている人もまた多くいるというのも事実です。もし8050と1031のいずれかを選ぶなら、私は1031を選ぶでしょう。」
(https://www.gearslutz.com/board/high-end/1112272-genelec-8050a-genelec-1031a.html)
I got both 1030 and 1031. I prefer the 1031 over the 1030. Just feels more clear and revealing .
「1030と1031の両方持っていますが、1031の方が好きです。よりクリアで正確な出音ですから。」
(https://www.gearslutz.com/board/high-end/1112272-genelec-8050a-genelec-1031a.html)
Having worked with almost any commercially available monitor I can’t imagine mixing on something more truthful as Genelecs. They sound good when the mix sounds good and bad when the mix sounds bad.The majority of the issues people attribute to Genelecs are actually caused by acoustical issues of their rooms.
「市場で売られているモニターのほとんどを使ってきて感じることですが、 GENELEC よりも忠実な音のモニターは私には想像できません。ミックスの際、良い音は良く、悪い音は悪く鳴ってくれます。GENELECに関する問題の多くは、部屋のアコースティックに起因するものでしょう。」
(https://www.gearslutz.com/board/high-end/1112272-genelec-8050a-genelec-1031a.html)
Too pleasant even in its neutral, I was tempted to wrong.They may not be suitable for a small room.THIS IS a shame because good speakers that I think are not suitable for mixing music club.Comfort in the studio does not mean excellent mix of the finished product.The price is also very high compared to their effectiveness.
「デフォルトの状態で(さえも)音が良すぎたので、もう少し良くない音の方がいいと感じました。おそらく広くない部屋には向かないでしょう。またこれは屈辱的なことですが、良い音のスピーカーはクラブミュージックのミックスには適していません。快適な音が必ずしも素晴らしいミックスに帰結する訳では無いのです。あと得られる効果に比べて値段が高すぎます。」(フランス語から英語に自動翻訳された英文)
(https://en.audiofanzine.com/active-monitor/genelec/1031a/user_reviews/)
I use the 1031 for almost 10 years. As tester in a magazine, I sovent the opportunity to compare with other brands, other models.
So far, there are only QUESTED which I thought was comparable. Other brands in the same range (Dynaudio, Mackie, Far) seemed to me less.
「1031を10年ほど使っています。雑誌のテスターとして他のブランドや型のモニターと比較する機会がありました。今のところ、( GENELEC に)匹敵するブランドはQUESTEDのみです。それ以外のブランド(Dynaudio・Mackie・Far)はそれ以下ということになります。」
(https://en.audiofanzine.com/active-monitor/genelec/1031a/user_reviews/)
音が良すぎるのでそれが為にミックスには向かない、という評価もありますね。これ以外に1031Aは特定の周波数帯にディップがある、という問題を指摘しているコメントもありました。ただ全体を見るとやはり高評価が多く、いわゆる“良い音”あるいはクリアな音が、良いミックス結果につながっているのだろうと思いました。もちろん私も1031Aの音はお気に入りです。
GENELEC1031Aの著名なユーザー
1031Aを使用している(以前使用していた)アーティスト、プロデューサーの例です。
- kanye west (カニエ・ウエスト)
- The chainsmokers(ザ・チェーンスモーカーズ)
- The chemical brothers(ザ・ケミカルブラザーズ)
- Oliver Heldens(オリバーヘルデンス)
- Moby(モービー)
- Darude(ダルード)
- Joris Voorn(ジョリスブールン)
- Nicky Romero(ニッキーロメロ)
- chocolate puma(チョコレート・プーマ)
- ariana grande(アリアナ・グランデ)
- etc
90年代から活躍しているアーティスト・プロデューサーにユーザーが多いのは当然だと思いますが、2010年以降に活躍しているThe chainsmokers や ariana grande 等もユーザーであるところを見ると、1031Aは幅広い世代にそのクオリティが評価されていると言えるでしょう。
ちなみに1031Aよりも上位のモニターとして候補に挙がるものに、Barefoot MM27 / Focal Twin6 Be等があります。大きさもさることながら、いずれも高価です。
個人的な1031Aの活用
youtubeで確認する限り、chainsmokersが 「Let You Go」 をリリースした時期には1031Aを使用していたことが伺えます。とすると1031Aでその時期の曲をチェックすれば、彼らが聞いていた音とだいたい同じ音で聴くことが出来ると期待できます。(マスタリングは考慮しない)
個別の音に対して、どの程度のアタック感を出しているのか、あるいはリバーブのウェット量やリバーブタイムはどの程度か、また各パートの音量バランス、ボーカルの聞こえ方、音のレイヤーなどなど、彼らのサウンドの意図について色々推測してみたりします。1031Aで作られたリファレンスの一つとして、その楽曲を参考にする訳です。
このように1031Aで作られた著名な楽曲を1031Aでチェックするというのは、それなりに意義があることでは無いかと、私個人は考えています。
GENELEC1031Aの故障・トラブル
生産が終了している機材で悩みの種となるのが、故障の際の対応をどうするかです。1031Aも例外ではありません。ここでは私が所有する1031Aであったトラブルについて説明いたします。
ノイズがのる
私のケースでは、「本来の音が鳴らなくなる + 大き目のノイズが常にのる」という厄介なものでした。この問題に関して代理店に問い合わせた所、シリアルを確認したうえで、「交換のための部品が入手できない可能性が高いので、おそらく修理対応が難しいと思われる。」と回答頂いたことがあります。ただ、その時の技術の方の口ぶりから、1031Aにノイズがのるという不具合自体、そこまでレアなケースでは無いようにも感じました。
根本的な原因はいまだに判然としませんが、何度か応急処置とノイズ再発を繰り返し、以下のような対応で今のところノイズを押さえています。どれが決め手になったかあまり良くわかってはいないのですが・・・。
- スピーカーユニットから基盤にくるハーネスコネクタ裏のハンダを補強(a)
- 入力XLR端子裏およびソケット裏のハンダを補強 (b)
- ハーネスコネクタに刺さっている配線端子を洗浄(a)
- 放熱板等ねじ止めされているパーツをバラして再度組み立て (c)
- 膨張・破損・脱落しているパーツ有無の確認
アンプ本体で無く、周辺部の対応で何とかなっているので、アンプそのものはまだ使えるかなと感じています。
将来的に、アンプ自体が完全に故障してしまったら、駆動用の高品位のパワーアンプ単体を別途購入し、今のスピーカーユニットの配線と繋げ、1031Aをパッシブで使おうかと考えています。事情に詳しい友人の弁では、アンプによる出音の変化はあるにはあるが、そこまででもないとのことで、1031Aを外部のアンプで駆動する際は、 クロスオーバーとフィルターがポイントになるのではないかと想定しています。
エッジが剥がれる
次のトラブルとしてドライバのエッジが剥がれてくる、という問題が発生しました。キックを打つたびに「ブリッ ブリッ 」という異音が混じるので、クリップしているのかと思いましたが、小さい音量でも鳴るので、直ぐにエッジが剥がれていると気がつきました。
ただ当時、ゴムや金属部の接着に適した「コニシ ウルトラ多用途S・U クリヤー 25ml」 のボンドをタイミングよく持っていたので、友人のアドバイスに従ってエッジに塗布し、1-2日放置したら無事に直り、異音も無くなりました。それ以降6-7年経過していますが、エッジ剥がれは起きていません。
時間差はあれど、結果的に左右両方ともドライバのエッジが剥がれて来ましたので、運悪くなったというより、1031Aのドライバエッジは、経年で剥がれやすくなるのではと今では理解しています。(他のスタジオの運用を見ていると、そういうことはありませんでしたが・・・・)
まとめ
以上、今回はGENELEC1031Aについてご紹介させて頂きました。
生産終了品ということで、入手方法や修理対応・メンテナンス等の問題があり、それなりのアコースティックや防音環境を整備しないと導入が難しいモニターですが、実際に音を聴いて頂いたら、なぜ高評価が多いのか、その理由をご理解いただけるかと思います。
ただどんなモニタースピーカーも万人にとって完璧という訳ではありませんので、導入される際には、一度実物の音を必ずチェックする機会を持たれることをお勧め致します。
興味をお持ちの方は、是非ご検討されることをお勧め致します。