SSL X-Logic / X-Rack(小型コンソール)機能解説及びメリット・デメリット

  • 2020年5月4日
  • 2020年6月6日
  • 機材

今回取り上げるのは大型コンソールメーカーとして有名な Solid State Logic(SSL) のラックマウントタイプの小型コンソール、XLogic / X-Rack です。

本機 X-Rack の初お目見えは2005年で、当時から SSL はプライベートサイズのスタジオでの需要を見越していたのか、今に至るまでラックマウントサイズの小ぶりな機材を多数リリースしてきています。

私自身、運よくかなり長期にわたって本機に接する機会がありました(私物ではありません)ので、本記事で

  • XLogic / X-Rack とは?
  • モジュール解説
  • 使用感に基づいたメリット・デメリット
  • まとめ

という流れで機能の解説と、導入にあたってどのようなメリット・デメリットがあるのかについてご説明させていただきます。

※ この記事は約6分で読むことが出来ます。

XLogic / X-Rack とは?

XLogic / X-Rack

SSLは、30年以上世界中の著名なスタジオへ向けて3000台を超える最高品質のミキシングコンソールを造り続けています。・・(中略)・・そのラージフォーマットコンソールと同じ技術を用いてSSLサウンドをアウトボードやモジュールラックで広くご利用いただけるようにした製品がXLogicシリーズであり、X-Desk、X-Patch、X-Rack システムなどがあります。(製品カタログより)

わかりやすく言えば、SSLの大型コンソールと同等のサウンドクオリティを維持しつつ、小規模なスタジオでも使えるように小型化したブランドを XLogic といい、X-Rack はそのラックマウントタイプの製品になります。

参考(外部リンク):XLogic / X-Rack 製品パンフレット

外観

フロント

X-Rack という外枠ラックに、任意の8つのモジュールを組み合わせてマウントします。モジュールの全パラメーターは、プリセットとしてリコール部で保存&呼び出しが可能です。

リア

各モジュール背面コネクタ下部の黒パネルで見えない部分で、X-Rack と各モジュールが連結されています。

マスターバスモジュールおよび4Line input系モジュールは D-sub コネクタですっきりした配線が可能です。

リコール部はデジタル制御ですがモジュール部はすべてアナログです。

リコール

リコール(プリセット呼び出し)はとてもシンプルで、ロータリーポットで保存したプリセット番号を選び、それに応じて点灯するLEDの状態にあわせてボタンとつまみを調整するだけです。

一見面倒に見えますが、実際に呼び出して調整する手間は大したことはありません。

モジュール解説

モジュールの種類

モジュールのラインナップは全12種です。
参考(外部リンク):X-Rackモジュール一覧

Stereo Dynamics モジュール / Stereo EQ モジュール / Stereo Bus Compressor モジュール 以外のエフェクト、マイクプリはすべて1スロット1チャンネルなので、これらをステレオで使う場合はそれぞれ2本づつ必要になります。

良くあるモジュールの組み合わせ例は

  • Master bus ×1
  • 4LINE input ×1~2
  • Dynamics ×2
  • EQ×2
  • Mic amp ×1

で、コンプ・EQはステレオ用に2本づつセットしつつ必要な入力数に応じて4LINE inputを増減する感じでしょうか。

ちなみに4LINE inputは入力、Master busはミックス/モニタリングを担当し、これらは必ずワンセットで使用されます。

またDAW出力をパラ出しする場合は4LINEが2本以上欲しい点と、マイクを2本以上使用する場合は別途マイクプリが必要である点に注意が必要です。

私が使っていた X-Rack もこの構成でしたので、以下この5種のモジュールに絞って詳細を解説いたします。

Master Bus モジュール

シグナルのミックスとモニタリングを担うX-Rack の基幹モジュールになります。

以下の4本のバスからモニター及びアウトプットをそれぞれ個別に構成することができます。

  • MIX:4Line input の全シグナル
  • REC:4Line input の REC シグナル
  • EXT:汎用入力バス(DAW のオケ再生用を想定)
  • SOLO / AFL:4Line input の SOLO シグナル

出力とフォローモニター

モニターの状態に関わらずRec outとMIX outから常時シグナルが出力されており、前者は通常DAWのインターフェースの入力に送られます。

またMaster bus モジュールにはメインモニターと補助モニター以外に、音量固定のフォローモニター出力もあり、録音ブース用モニター等での使用を想定しています。

Master busモジュールと4Line inputモジュールはX-RACKで内部的に連結されているため、両者の直接の結線は不要です。

4 Line Input モジュール

入力を担当するモジュールで、ちょうどミキサーの各チャンネルに相当します。低ノイズで滑らか&ハイファイな音質です。

4Line InputモジュールはMaster busモジュールとの内部結線以外に、個別にリターン用出力が準備されており、入力シグナルの分岐に活用できます。

Dynamics モジュール

リコールで設定が呼び出せる点以外は、通常のアウトボードと同じ感覚で使用することになります。

音質は滑らかで艶があるものの、実際のメーターで視認できる以上にリダクション感が強いため、通常使用ではLEDが1つ点灯するだけでも十分なコンプレッションを得られます。ピークを揃えるだけでなく、パンチと勢いを出すための積極的な音作りにも活用できます。

背面コネクタの Key 入力をトリガーとしサイドチェインすることも可能です。

背面のKey入力で2本のDynamicsモジュールを接続すれば、ステレオコンプとして使用することもできます。

Channel EQ モジュール

コンプと同様リコールで設定が呼び出せる点以外は、通常のアウトボードと同じです。

スタンダードな4バンドのパラメトリックEQで、かなりレスポンスがはっきりしており、効き具合がくっきりと出る印象です。倍音をブーストしすぎると結構音にギラ付きが出てきます。

ボーカルやインスト録音のローカットおよび倍音調節、ミックスの際のステムの調整などさまざまな局面で活用できます。

ただコンプのようなステレオリンクはできないので、2本使用してステレオソースに使う際には左右のセッティングに若干注意が必要です。

Mic Amp モジュール

マイク / インスト / ラインの3種の入力に対応したプリアンプです。

連続可変のインピーダンス調節つまみでサウンドの明度が調節できます。またアンプとしては目立った脚色の無い素直な音質という印象です。

搭載されているフィルターで調整してもいいですが、後段にEQモジュールを配してそちらで音を整理するとより細かな音作りが可能です。

使用感に基づいたメリット・デメリット

メリット

滑らかな音

X-Rack 全体のサウンドは、私の主観では滑らかでシルキー、クリアでハイファイな音という印象でした。SN比も良くいい音であると言い切れます。

ただし独自のカラーが強く出たガッツのある音とは違う、という点は一応留意しておいたほうがいいかもしれません。

比較対象として適切かどうかわかりませんが、本機を使った某所で併設のチューブ式のプリアンプ兼コンプ Drawmer1960 と対比するとよりこの印象が強く残ります。

サミングミキサーとして使える

サミングミキサーはミックスのみに特化したハードウェアのことで、通常のミキサーであれば使える EQ やヘッドアンプ等がありません。おおむね高品位で高価格帯の機材になります。

ここでは4LINE input がそれに該当し、DAWから出力をパラアウトして、4LINE input でステムミックスすることでデジタル飽和の無いヌケの良いすっきりした2ミックスを得ることができます。

もちろん必要に応じて各種のアウトボードをそれらに挿すことも可能で、デジタルとアナログを統合させた制作環境となります。

この場合マルチアウトのインターフェースが必須で、4LINE inputモジュールも2本以上は欲しいところです。

パッチベイ併用で柔軟なルーティング

X-RACKを使用する際はパッチベイを組むのが現実的です。それにより

  • X-RackのEQ・コンプを含むアウトボードの活用
  • 3系統以上のモニターの活用
  • DAW入出力の柔軟なルーティング
  • MIXバス/4LINE へのインサーション

等が可能になります。

チャンネル数こそ限られているものの、その点を除けば大型コンソールと肩を並べる拡張性を備えることになります。

堅牢かつ長寿

私自身本機を使用してまだ10数年程度しか経過していないので、今後のことはわかりませんが、少なくともこの間パーツのヘタりやガリノイズ、サビ(ラック外枠は除く)等が発生した記憶はありません。

おそらく寿命が相当長い製品だと考えられ、まさに一生モノの機材といっていいでしょう。またフロントパネルは通常使用をしている限り、なかなか傷がつかないであろう堅牢な造りになっています。

下記のデメリットで記載しているようにかなり高価な機材ですが、数十年かけて減価償却すると考えると、一年で3~5万円程度の投資となり、高すぎるとは一概には言いきれないとも言えます。

デメリット

高い

X-Rack本体が約130,000円(税込み)各モジュールが1本約110,000円(税込み)として全て新品で揃えると1,000,000円を超えてしまいます。

くわえて下記のバンタムパッチベイ一式で100,000円~150,000円程度の追加出費となり、個人の趣味レベルでおいそれと手が出せる代物ではなくなります。

いきなりすべてのスロットを埋める必要はないかもしれませんが、最終的にモジュールを買い足すと考えたらやはり高い買い物になるでしょう。

中古のX-Rackはメルカリ・ヤフオクで、モジュール込みで 500,000円~600,000円 の相場で売買されている模様です。 

オフラインバウンスできない

当たり前のことですが、DAW 内部のエフェクトを書き出すように、オフラインバウンスをして X-Rack(およびアウトボード) のエフェクトをかけることはできません。

高品質とはいえその都度リアルタイム再生して DAW に取り込みなおすのはなかなか手間のかかる作業になります。

バンタムパッチを組むのが面倒

既に何度か言及していますが、X-Rackを使用するにはどうしてもパッチベイ、特にバンタムパッチベイを組む必要があるでしょう。

仮に制作を外部の業者に依頼するにしても、慣れていない人間がパッチ構成と接続方式を検討して仕様を決めるのはなかなか骨の折れる作業です。

もし自分で制作するなら数週間作業期間を見込み、その間えんえんとはんだこて片手に結線に追われることになります。

個人的にはバンタムパッチのセッティングを自分でやるのはとてもいい経験になるので、余裕があれば自作をおすすめしたいところではあります。

まとめ

以上、X-Logic / X-Rackの詳細について説明させていただきました。

本機はその価格にどうしても及び腰になってしまいますが、防音設備、高品位なモニタースピーカーなど、楽曲制作のクオリティを底上げするためのある種のインフラ整備には、相応の出費は仕方がない面もあると私は考えます。

ありふれたDAW環境のサウンドに対して、高品位のアナログサウンドになじんでいるというのは、通常のクリエイターが知らない音を知っているという意味で大いに差別化になるでしょう。

SSLはこれ以外にもプライベートスタジオで導入可能な小ぶりの製品が多数あり、購入前提でなくともその仕様を眺めつつ、将来のスタジオレイアウトをイメージするのは楽しいものです。

ちなみに私も、予算的な都合がつけば(個人で)そのどれかの導入を前向きに検討したいと考えている一人です。