Yamaha NS-10mの凄さを詳しく解説します(持ってないと損する)

  • 2020年4月21日
  • 2021年12月16日
  • 機材

Yamaha NS-10m 、今を去ること40数年前の1978年にリリースされ、音楽・放送関係者で知らない人はいないというくらい、津々浦々のスタジオに導入されデファクトスタンダードとして世界を席巻した、ギネス級のニアフィールドモニターです。

私も15年ほど前に詳しい理由も知らず、関係者の方から「テンモニはマスト」という一言で中古の NS-10m studio とYamaha のアンプを即時購入しました。

当時はまだ若く未熟だったため、なぜこれがスタジオモニターの定番なのかよくわかっていませんでしたが、使えば使うほどそのオールマイティな性能が体感され、特に他のモニターと比較することでその特性がより鮮明になると感じました。

この記事では

  • Yamaha NS-10m はなぜそこまで評価されるのか?
  • 導入にあたってのメリット・デメリット
  • まとめ

の順に NS-10m の凄さについて詳しく解説させていただきます。

※ この記事は約5分で読むことが出来ます。


➡ 参考【購入時に必見】Yamaha NS-10Mのラインナップを詳しく解説します
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Yamaha NS-10mは
なぜそこまで評価されるのか?

高い解像度の中音域 /すっきりした低音域

NS-10m studio のマニュアルより / 1K~2Kにかけてピークがある

「NS-10m の周波数特性はフラットである」というのはよく聞く表現ですが、これには補足が必要で実際は


  • 他の帯域と比較して中音域(1.5~2.0k 周辺)に+5dB程度のピークがある
  • トップエンドがゆるやかにロールオフしている
  • ローエンドが100Hzを境に急速に減衰している

といった特性があります。

この中音域(1.5~2.0k 周辺)は多くのパートが密集しやすいレンジで、NS-10mはそこで高い解像度を実現しているため、乱れやすいミッドレンジのミックスを安定させることに貢献していると考えられます。

弊スタジオのNS-10m Studio / ダクト孔の無い密閉式

また 100Hz を境に急減衰する特性は密閉式のエンクロージャーからきており、このことはさらに、下の補足にも記載している、ひじょうに短い低音域のディケイタイムに密接に関連しています。

結果として他のニアフィールドと比べて、よりすっきりとした音で低音域をチェックすることができ、キックとベースの正確なミックスバランスを得るためのアドバンテージとなっているわけです。

Studio Sound誌がサウサンプトン大学で実施した調査によると、NS-10m は 200Hz 以下のディケイタイムが、他のどのニアフィールドモニターより短いということがわかりました。

このような特性は通常、高品質なラージモニターにしか見られないようで、いわゆる「乾燥したような音」の一因にもなっていると考えられます。

きわだった応答速度

もう一つ NS-10m の際立った特徴としてよく語られるのが、その応答速度の速さです。

応答速度というのは、ごく短い音が出力されるときに、スピーカーの振動部位がプラス極性とマイナス極性を1周期振動して元の位置で静止するまでの速さのことです。

この記事を書くにあたって参照させていただきました

参考:スピーカー測定:YAMAHA NS-10M
参考:スピーカーのインパルスレスポンスの測定(Room EQ Wizard)
音にまつわるよもやま話

の測定調査よると、NS-10mc は100マイクロ秒以下というかなり速い応答速度をたたき出しています。

いうまでもなく音は空気の振動ですから、この応答速度が速くてかつ余分な動きがないものほど、音の鋭いタチを実現し、ロックやポップスで必須のいわゆるパンチのある出音になるわけですね。

このきわだった応答速度を実現しているのが NS-10m のビジュアル上のポイントでもあるウーハーの白いコーン紙で、これは良くある金型のプレス加工でなく、一枚の紙をメガホンのようにぐるりと巻いて接着した構造をしています。

弊スタジオの NS-10m Studio、コーン紙の接着面が確認できます。

違いは、プレス加工の場合スピーカーを真横から見ると中心からエッジに向かって反り返っている場合が多いですが、NS-10mは反り返りがなくまっすぐです。

これにより振動部位のつっぱる力が保たれ、すばやいレスポンスが可能になっているわけです。

公式には2001年に原料のパルプが入手困難となり、それが原因で NS-10M の生産は終了に至りました。本機は今では入手ルートが中古市場に限られていますが、後継機の Yamaha HS50M や、復刻版 Avantone CLA-10 などは正規ルートで入手可能です。

正直な出音

これに関して客観的なデータがあるわけではないですが、NS-10m の音に余分な脚色がない、正直な出音であるというのは感覚的にうなずける話です(あくまで私の主観です)。仮にミックスの周波数帯ごとの音量バランスが不適切なら、それがそのまま出音となって表れてしまうわけです。

どちらかといえば淡白で乾燥したような音は、リスナーの琴線にふれるような、聞いていて楽しめる音ではないかもしれませんが、音のリアルな姿をありのまま忠実に伝えてくれる、職人気質なモニターといえるかもしれません。

ちなみに NS-10m で Spotify の圧縮されたストリーミング音源と実際のWAV音源を聴き比べると、はっきりとその劣化の度合いが聞き取れます。高音質の設定であるにも関わらず、です。

NS-10m で良ければすべて良し

“If it sounds good on the NS10M it will sound good anywhere”
「NS-10mでいい音なら、どこで聴いてもいい音だ」

私の経験でもこれはかなり真実に近いと思います。

モニタースピーカーを評価する際に海外では「Translation」という表現が良くつかわれます。直訳すると「翻訳」ですが、私個人はこの言葉を他のサウンドシステムでどこまで通用するかの度合いと解釈しています。

「Translation」が優れているモニターのミックスは、他のニアフィールド、大口径のラージ、ホームオーディオ、ヘッドフォン、カーステ、その他さまざまなサウンドシステムでチェックしてもバランスに大きな破綻がありません。

NS-10m はこの Translation でも高い信頼性を誇ります。

NS-10m で均整の取れたミックスが他のモニターで崩れてきこえる、ということはまれで、このモニターで満足のいくミックスは、他のサウンドシステムでもそこそこ満足いく出音がえられる可能性が高いのです。

大量の世界的ヒットを生み出した

音質に関する評価とは違った切り口ですが、NS-10m は最も多くのグラミー賞を獲得したスタジオモニターでもあります。

近年は音楽制作の低予算化と短納期化が進み、多少の圧縮音源も許容するような風潮がありますが、NS-10m が普及した80年代というのは、マイケル・ジャクソンのスリラーような、モンスター級のヒットソングが世界中を駆け巡った時代でもあり、潤沢な予算から今よりも腰の重い丁寧な作業が許容された時代でした。

それらを担っていた当時の熟練のエンジニアの多くが NS-10m に大きな信頼を置いていた、という事実は無視できないと考えています。

David Bowie – Let's Dance (Official Video)

NS-10M に関連する作品として名高い David Bowie – Let’s Dance

NS-10m は当初、スタジオを渡り歩くトップのフリーのエンジニアにリファレンス用スピーカーとして重宝されました。そのトレンドは過熱し、やがて何千ものスタジオが有名プロデューサーを呼び込むために本機をこぞって導入するようになります。
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導入にあたってのメリット・デメリット

出音に関する評価は十分議論されていますので、ここではそれ以外の NS-10m に関するメリット・デメリットについてご説明いたします。

メリット

多くのスタジオでセットされている

日頃自分が耳にしてなじんでいるモニターが出先のスタジオでも置いてある、というのは、音を聞いて可否を判断しなくてはいけない場合などで、助かることが多いでしょう。

逆に初めて耳にするモニターであれば、出音を聞いていいのか悪いのか、即座に判断するのはむつかしいかもしれません。

市場価格が安定している

1978年に本機がリリースされてから40年以上も経過しますが、中古市場の品薄で調達に苦慮するということがあまりなく、相場がだいたい¥40,000~¥60,000 周辺で安定していて、どちらかといえば年を経るにつれ価格はすこしづつ下がってきていると感じます。この傾向はここ10年あまり変わっていないような気がします。

状態にもよりますが、完動品ワンセットで¥50,000前後という値段はリーズナブルといって差し支えないでしょう(アンプは別)。プレミアがついて高嶺の花になる、という事態は今のところはなさそうです。

デメリット

パッシブである

最近のモニタースピーカーはほぼパワード(パワーアンプ内蔵)ですが、NS-10m はパッシブなので別途パワーアンプを調達する必要があります。

パッシブいうことで保護回路はなく、電源投入時やモニタリング時に不意に発生する過大入力が原因で、ユニットを飛ばしてしまうことが珍しくありません。

セッティング時に、ボリュームつまみがフルでもモニターに大きな負荷が及ばないアンプボリュームにしておいたり、タイミングディレイのあるディストリビューターを導入するなどして対策を講じたいところです。特にツイーターが飛びやすい傾向にあります。

生産されていない

既に生産終了していますので、必然的に中古市場から調達するしかありません。

運悪く故障してしまった場合には、外部に修理依頼するか、できる範囲で自分で修理対応をする必要があります。ブロウさせたユニットの交換程度なら慣れるとそこまで難しくないので、一度は自分でやっておきたいところです。

個体差がある

NS-10m には多くの型違いがありますが、同じ型であったたとしても出音に微妙な個体差があることが珍しくないです。

過去に3つの NS-10m studio を頻繁に聞く機会がありましたが、すっきりと問題なくなっている個体、低音がやせて聞こえる個体、ごくわずかな音の質感の違いといった差異は確かにあったと記憶しています。ユニットやフィルターの劣化によるものかと思いますが、聞いた印象はかなり違います。

中古市場で購入する場合は事前に音をチェックする機会が得られないケースもあり、なかなかむつかしいですが、最低でも状態は細かくチェックしてハズレを引かないようにしましょう。

購入方法

NS-10m の入手は ebay の活用をおすすめいたします。

➡ 外部リンク : ebay Ns-10m ページ

以下はその理由。


  • Ns-10M の中古品取り扱い量がヤフオクよりもずっと多い
  • ebay にしかない商品がある
  • 状態の良い個体、品薄の型式が見つかる可能性がある

もちろん日本の出品者も多く、その場合配送にかかる日数も数日以内でしょう。出品者の側から見ても、手数料の面からヤフオクよりも ebayでの購入を歓迎する側面があるようです。

私も過去に ebay 経由で Focal cms50/sub そして Access Virus TI などを購入しています。

まとめ

もともと業務用に設計されたわけではない本機が、本職のエンジニアに見いだされ、急速に商業系のスタジオに普及していったのは、歴史の皮肉と言えるでしょう。

私個人はずっと NS-10m をメインに据えていたわけではなく、Focal cms50 / Genelec1031A / Dali Royal Menuet2 やその他もろもろ、さまざまなモニターを時期によって使っていましたが、リファレンスとして NS-10m に切り替えてチェックするたびに、その信頼性を何度も再確認しました。

もし NS-10m の音を聞いたことがないという方は、何がそんなに凄いのかぜひ直接体感される機会をもつことをおすすめいたします。


関連事項として Genelec1031A について説明した記事もありますので、ご興味がありましたら是非ご覧くださいませ。

関連:【音楽:機材】GENELEC1031Aの素晴らしさを語る